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幸福なる種族の留のレビュー・感想・評価

幸福なる種族(1944年製作の映画)
4.5
初見のD・リーン。70mm大作じゃない小品でも素晴らしい映画を作るのはさすがだ。第一次大戦後すぐから第二次大戦直前までのロンドンの中流家庭ギボンズ家が引っ越ししてくるところから始まった映画は家庭の出来事を淡々と描いていく。なんか小津映画見てるみたい。
こっちの方がずっとドラマチックだし会話もうるさいけど。
1919〜1939年までの20年間にイギリスを中心になにが起こったのか?そして庶民は社会の出来事とどう対応したのか?ゼネストがあり、アジアでは日本が植民地政策を強引にすすめ、ドイツではヒットラーのナチが政権を取る。
資本家こそが悪だと革命的思想を公言する若者サムが出てきて、長男レジもそれにかぶれる。長男はデモかなんかで怪我をする。そのせいでサムに惚れてた長女ヴァイはサムに絶交言い渡す。
父親の戦友ボブ・ミッチェル スタンリー・ホロウェイが実にいい味!その息子、ビリー ジョン・ミルズは次女クィニーに惚れている。
世界では大事件が起ころうとも家庭にあっては子供の結婚や嫁姑(この家ではおばあちゃんと伯母さんシルヴィア)のいつもの喧嘩が家庭内の揉め事の一番だし、次女が不倫の末、家を出るという大事件が起こる。
そして長男夫婦の突然の交通事故死!
後半では伯母さんはすっかり丸くなり、おばあちゃんとも仲良くなってる。そしておばあちゃんは亡くなりビリーとクィニーが結婚して息子も生まれる。水兵のビリーはシンガポールに居てクィニーは赤ちゃんを両親に預けシンガポールへ。
ギボンズ夫妻は乳母車を押して20年住んだ家を出て行く。
1stシークエンスの引越しはカメラが縦横無尽に動き回り、これがデヴィッド・リーン???と驚いた。山崎貴みたいで、ただあんなに無意味に動きはしないが。隣人スタンリー・ホロウェイが挨拶に来て戦友だとわかってからはカメラは固定ぎみで人物の関係をじっくり描く。セリフは多いがセリフで説明ではなく、会話によって人間関係を描いていく。
ノエル・カワードの見事な腕前。
☆レジの結婚式前、車を待つ間のおばあちゃんと伯母さんの言い争いの強烈なおかしさ!
☆クィニーが家出したあと妻は寝室に行き夫はうなだれている。悲しく無残なシーンだが一切音楽は入らず静かにカメラが窓を通して外に引いて行く。外はすごい雨で雨の音が激しく入って来て、音楽が静かに流れ次のシーンへ。
☆夫妻は庭に出ていて画面から消えている。ヴァイが弟夫婦が事故死したことをおばあちゃんと伯母さんに告げ、画面から去らせる。ヴァイも庭に出て画面から消え、しばらくして母が、父が庭から戻って来て椅子に座る。涙も泣き声も叫びも一切ない。
どのシークエンスも本当に素晴らしい!
○ロンドンにもナチ ファシストを支持する人々がいたり、ゼネストに対する人々の対応の違いも描くがどちらが正しいとは言わない。
○伯母さんはナチとの戦争は駄目だと言い、戦争で戦ってきたギボンズ氏はそれでもファシズムとの戦争は必要だと言う。
○前国王の死が近いことを伝えるラジオ放送でベートーヴェン7番のアレグレットが流れるが、あれは史実だったの?「英国王のスピーチ」のオリジナルじゃなかったんだ。
繰り返し見て賞翫する価値のあるデヴィッド・リーン初期の傑作だと思う。出会えて良かった。

1つ非常に残念なのはテクニカラーなのに色が飛んでいて緑がかっていて汚い。三色分割じゃなかったの?デジタルリマスターできないのかな?すごく惜しい。

小津の《麦秋》では『チボー家の人々』だけでなく、この映画の題名も飛び出す。
小津さん、ちゃんと見てらしたんですねぇ。
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