イチロヲ

武蔵野心中のイチロヲのレビュー・感想・評価

武蔵野心中(1983年製作の映画)
3.5
文豪・太宰治(峰岸徹)の愛人となった女性(高瀬春奈)が、太宰の豪奢な女性遍歴と特異な感性に悩まされながら、最期まで献身していく。太宰治の研究家・長篠康一郎の原作を映像化している、日活ロマンポルノ。NCP共同製作。

太宰治と一緒に情死した人物・山崎富栄(トミエ)を主人公に据えている作品。太宰治は自身の経験則を元ネタにしながら小説を執筆しているため、逸脱した感性が研ぎ澄まされている。そして、その性質が自分自身を苦しめていることを自覚している。

一方、愛人のトミエは小説家としての太宰ではなく、人間としての太宰の愛を欲するのだが、彼の歪んだ心を矯正するのは至難の業。結局のところ、太宰は誰も愛することのできない、「自分自身を愛することしかできない人間」として描かれていく。

男女関係における心の機微がだいぶ端折られており、太宰が死地に向かっていく感覚も薄いため、感情の昂ぶりが伝わりづらい、という難点あり。だが、自分と向き合ったときの心の綾こそが、太宰文学の真髄であることを学ぶことができる。
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