三樹夫

積木くずしの三樹夫のレビュー・感想・評価

積木くずし(1983年製作の映画)
3.3
娘が不良になる映画だが和製『エクソシスト』映画ともいえて、なぜかというと『エクソシスト』は親の目から見るとグレた子供はまるで悪魔に取り憑かれたように見えるという一般家庭で起こり得る子供の不良化のメタファーで、親が子供に持つ恐怖の映画という解釈があって、この映画はその解釈に則ったような娘がグレるのがまるで『エクソシスト』といった映画になっている。「悪魔に取り憑かれたみたい」といういしだあゆみの台詞があったり、不良更生セラピーがまるで悪魔祓いみたいなど、『震える舌』と並んで80年代の和製『エクソシスト』映画の代表作となっている。
原作は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクの吹き替えでお馴染み穂積隆信で娘のと実話が基になっているが、グレた原因は穂積隆信のせいと何気に何この話感が漂う。結構紋切り型の映画で、猫や赤ちゃんが好きだったりでグレたとはいえ元々は純なところがあるという、雨の日に捨て猫に傘をさす不良みたいなベッタベタの演出や、穂積隆信のせいでグレてそして穂積隆信が落とし前をつけてと、ベタというか王道というかといったストーリーだが、それでも最後に二人で自転車に乗って走っているのがベタだが心に染みる。ただ現実では家庭崩壊してそんなことなかったみたいだけど。

この映画の最大の見どころはグレた娘のエクストリーム不良描写で、夏休みに無断外泊して初体験を済ませて帰って来てからが本番。反抗期というか反抗鬼のもはや鬼になって帰ってくる。「クソババア金出せよ」といしだあゆみをボコボコにし、不良アートで部屋中をピンク色に塗りたくり、挙句の果てに自転車と猫もピンクに染めるのは声出して笑った。ピンク猫は最後までちょくちょく出てくるが、画面に映るたびに笑う。シンナー吸ってラリルレロになり制服をナイフで切り刻むシーンの、制服をナイフで切り刻む意図は分かるけど、やっぱりエクストリームなので笑ってしまう。不良ファッションとメイクも正直笑かしにきてる。
「クソババア金出せよ」といしだあゆみを家中引きずり回しているやたら長いシーンは『エクソシスト』っぽい。このシーンは「クソババア」と「ババア」と「金出せよ」の3つのワードだけでなんとかやりくりするスーパーボキャ貧シーンだった。鑑別技師のアドバイス通りに2回目の「ごめんなさい」ではドアを開けないというシーンでは、「ごめんなさい」と言われて思わずドアを開けたくなるのが、まるで悪魔からの甘言のようにも思えてくる。

大人の男が全員碌でもなくて、藤田まことは都合が悪くなればすぐ仕事に逃げるかいしだあゆみにすべてを押し付ける上に不倫もしている完全にダメオヤジだし、先公やポリ公も隙あれば全く心に響かない説教をしてくるただマウント取りたいだけだろというマウントマンで、やたら殺伐としている。鑑別技師のおっさんのアドバイスは、あれって正しいのだろうか。そんな中いしだあゆみがひたすら可哀そうな映画になっている。
穂積隆信って団地住みなのか。そんなに給料安かったのか、それとも赤坂住みなので家賃が高いのか。

渡辺典子の下着姿がやたら多いが、サービスカットとかそんな意図だったのだろうか。とんでもな状況の中にアイドルを放り込んで、懸命に頑張っている姿に観ている者はメロメロになるという角川映画がよくやる手法と同じ映画だが、渡辺典子が可愛いと思うよりもエクストリーム不良描写が面白いの方が勝っちゃう。
角川三人娘の中で影の薄い渡辺典子だが、他の二人よりも演技力があり歌も上手くなんなら美人度でいえば一番の美人だが、アイドルとしてそれが必ずしも正解というわけではないんだなと思う。渡辺典子の場合は他の二人よりも作品と曲に恵まれなかったというのもあるし、角川春樹の熱量も他の二人より薄かったというのもあるが、薬師丸ひろ子や原田知世みたいな方が得なんだなと思う。女優もめちゃめちゃ顔の整った美人の方が得かというとそうでもなく特徴的な顔の人の方が活躍してるし、器用貧乏だと損なのかな。
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