すず

春夏秋冬そして春のすずのレビュー・感想・評価

春夏秋冬そして春(2003年製作の映画)
3.5
緑深い山間の湖上の寺院に、老和尚と幼子。

こじんまりと佇む古びた寺院。小ぶりな仏像を拝み、和やかで、湖上の小舟は波にゆれる。見るからに簡素で、物質的な世界を離れた、穏やかな景色。

鳥の囀り、雨の音、蝉の声、小波の音、山や水辺の小さな生き物、寺に住む鶏や猫、そして人間の生命の揺れ動き。それらが、四季の彩と音色の間に静謐に紡がれる。

無邪気の邪の春、
青き衝動の夏、
激情の秋、
回帰の冬、
そして春はふたたび。

季節は繰り返し、人の世の輪廻を想わせる。

ひとりの人間の人生を通して、人の世のあらましを達観するような作品。そして次第に世俗を超越した描写を織り成し、湖上の寺院をめぐる独自のファンタジーを描き上げている。綺麗で、感傷的で、情感あふれる文芸作品だった。

仏教の教義のようなものが土台にあるのだろうか?説法を受けたかのような余韻も残る。

老和尚が床の一面に、抱いた猫の尻尾を毛筆にして書き上げた般若心経を、男がナイフで彫りながらなぞって写経するシーンは、あまりに独創的で芸術的で、特別なものを拝ませて貰った気分になった。


「手にした物は いつか失う。」
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