せいか

月に囚われた男のせいかのネタバレレビュー・内容・結末

月に囚われた男(2009年製作の映画)
1.0

このレビューはネタバレを含みます

12/30、Amazonビデオにてレンタルして視聴。字幕版。
低予算でつくられたというのが一つのポイントらしい。確かにそれができる設定と美術ながらだいぶ、なんかありそうな大道具でSFをやっていたのですごいと思った。
内容は、細かいこと考えるとなかなか無理やりというか、全体的にシナリオに荒削りの感が否めなかったけれど、面白い短編小説のSFみたいな作品ではあった。人類が抱えてきた差別と人間や物の消費に対するやんわりとした問題提起になっている面もあった。ただしどこまでそこを考えてつくっているのかとなると疑問も残るけれど。


あらすじ。
近未来、地球が持つエネルギーはほとんど人間に絞り尽くされていたが、彼らは次のエネルギーを見つけ、今ではエネルギーの7割程度を依存するようになっていた。月面の採掘場は地球から見た月の裏側にあり、そこで働いている人間は一人で、日々黙々とうんざりしながら職務をこなしている。契約満了期も目前に迫る中、通信も満足にできないこの孤独がやっと終わるかと思っていたが──?
主人公は任期の終盤になって妙な幻覚に悩まされたり体調不良を起こすようになっており、ある日、エネルギーの回収作業の出先で事故を起こしてしまう。
そして基地内では基地内に繋がれた形のAIロボットが1台いるだけなのに、寝台に主人公が綺麗な状態で横たわっており、目が覚める。彼はなぜか基地内に閉じ込めようとするロボットを払いのけて外に出るが、出先で見つけた事故車の中に衰弱している自分を発見する。
つまり本作のからくりは、主人公はクローン人間だったのである。月のエネルギーを寡占している会社は実際の月での勤務はある男から作ったクローン人間に任せており、クローン人間は自分の肉体の寿命がくる三年間、何も知らないまま働き続け、地球に帰れるものと思って棺桶のような睡眠ポッドに入って生涯を終え、基地の地下にストックしてある新たなクローンが目覚めて次の三年間をとひたすらやりくりしていたのだ。
だがたまたま同時に二人が目覚めた状態で存在することになり、次第にこの施設のからくりが明かされていく。事故で破壊された回収者の修復のために派遣された人々が来て何が起こったかバレると二人共殺されてしまうという中で、いよいよ衰弱が激しくなった一人は元の事故車の中で死ぬことを選び、生まれたばかりのほうはエネルギー輸出ポットに乗り込んで地球へと発つことになって、そうして地球に降り立てたほうが会社を告発し、非人道的だとして世間の非難が会社へと向かったというナレーションで物語は終わる。

人類が宇宙に進出してどうのとか、地球外の資源をどうのみたいなの自体はこれまでのSFにもあると思うけれど、めちゃくちゃそのエネルギーに頼ってるけど月面基地に人間は一人ですというのはなかなかないのでは……。


さて、余談から始まってあれだけど、冒頭で人間が地球のエネルギーを使い過ぎたという説明が挟まれるのだけれど、この点に関しては興味があることだったので、ほんまになって感じであった。どういった形態にしろ地面から採掘できるエネルギーの場合(というかエネルギーに限らないあらゆる物質がそうだが)、それは地球というものの体内のものを削り取り、あるいは吸い取って活用しているわけで、そういったものは普通、恐ろしいほどの時間をかけて特別な条件のもとで形になっている限られたもので、その体内にあるもので人間の文明は自らの発展と安寧との引き換えにさらに地球を汚せるのだからすごいよなと、しみじみした。太陽エネルギーなり形のないエネルギーにしたってそれを受けるための形を築く上で何かを破壊した上で成り立たせているのだから、人間の営為は救いのない一面とセットなのである(そして私もそれを大の字で浴びさせていただいているのだけれども)。
地球に寄生したその次に月の資源に寄生することを当然とする人類のキモさよ。そして多分に将来的に宇宙開発でそこまで見出してしまったら本当にそうするんだろうなというところも想像に難くないのだけれども。
自分がクローンだとは露とも思わず、目覚めもたまたま月までの移動の影響だと思わされて錯覚し、自分が人気の終わりに自ら棺に入らされるとも知らず、三年間をひたすら繰り返していくというのが想像してみるとなかなか怖い設定だったのでもあるけれど、人々は限りある資源の矛先を月に変えたときに、限りある労力を半永久的な機関化することでその資源を得ていくようになったというのもなかなかシニカルで好きな設定である。

なにはともあれ、地上のエネルギーは特に近代以降は顕著に国家単位のイニシアチブ合戦の道具としても使われていたわけで、今や7割程度を占めるそれに対して妙に人間側の態度に静けさがある(=争いのにおいがない)のが冒頭からあまりにも気になりながら視聴。ちなみにここに関しては結局のところマジでどこぞの一社寡占状態で世界はよしとしていたと理解しても良さそうなくらい、そうしたところは全く話に出てこなかった。そんなバカな……。
クローン人間の採用は会社の独断みたいなオチっぽかったけれど、インフラにも関わるこの規模のビジネスとなるとそれも無理があるので実際のところ少なくともどこかの国絡みでなきゃ運営できないと思うのだなあ。修理するときに派遣として有人のものを比較的期間も空けずにすぐに現地に向かわせられたりもしてるので、月に行くことがそこまで困難なことではないのだとしたらやはり疑問は出てくる(一社の寡占で他は全く近づくこともできないとか、そういう宇宙開発技術も独占しててとかはありえなくない?なので……)。隠蔽はあるにしても、エネルギー回収のための仕組みやスタッフが不透明なの、誰も突っ込まんかったんか?というのもある。現地は完全にロボットのみで運営しておりますみたいな建前でも作ってたのかと思うけれど、多大に頼ってるエネルギーの回収地が月みたいな遠方にある中ではやはりいろいろ無理がありそうな。
そして何より、衝撃の事実が明らかになったところで、果たして人類はその半永久機関に頼ることを止められるのか?とも思う。作中でもクローン自身が自覚していたように、技術をもたせた状態の一人の人間のクローンを使い回すのがよほど安上がりというのもあるし、クローンをどう捉えるかによってはそれを使い捨ての電池のように思うことだって可能なのである。それに地上の人々がその存在を目の当たりにすることがない限りはどこまでも透明化してしまえるのだ。しかも今回のような事故さえ起こらなければ、クローン自身自分が搾取されていることに気付かないまま、檻の中で穏当に仕事し三年間を過ごすことを繰り返してくれる仕組みができている。
……なんだか現実にもここまで極端な形でこそないけど転がっているような状況でもある。本作、どこまでそこを意図したかは観ていてよくわからないけど(いささかフワフワしてるので)、現実社会の人や物に対する搾取構造とそれに甘んじまた見ないふりができる人々というものを形を変えて描いているのかなと思った。そういう意味では、例えば、ケア労働などを当たり前のものとして蓋してきた人類史の未来に起こり得る一頁とも取れる。

本作において真っ当にクローン人間を人間として捉えて奉仕していたのは基地内のロボットで、そのロボットはいつかの先代の主人公に「kkk me(※と書いてあったと思う)」とレッテル貼りを付箋でされてもいたりもする。最後には脱出する主人公の行動の邪魔にならないようにメモリ消去と再起動という一個の死を選びさえするところで主人公は彼も一人の人間として認め、このレッテルを剥がして去るのだけれども、なんかそのへん踏まえてもうっすら皮肉を感じるというか。


あと、最初に登場するクローンが見てた女性(妻???)の幻覚も結局、話の中で取り立ててきちんと調理されてなかったり、中盤の謎の髭面主人公(別個体クローン)が干渉しようとするというくだりも曖昧なまま終わって、あれはなんだったんだ?感。クローンの話っぽいのに並行世界とか時間SF的なところに持っていくのかと途中まで誤認していた。これまでの個体の中にも異常を検知したものがいて、その思念のようなものとでも思えばいいのか……。
あと、まだまだあった主人公のスペックもといクローンたちはどうするんだろうとか、そもそものクローン元はどこまでこの事態に同意していたのかとか、本体は?等々、たくさんの疑問が残りまくるのが心残りでもある。

さらに書いておけば、あんまりそこに情感込めるつもりがそもそもないのだろうけれど、もう少しクローン同士のやり取りとかロボットとのやり取りに違う尺の使い方してても良かったような気もする。終盤では彼らの関係性がまとめられるけれど、なんとなく上滑りしてると感じた。ポットが地球へと発つのを見送る、衰弱しているもう一人の主人公のシーンも、描かれてきた以上の感慨がないというか……。彼(ら)の内面的なもの、描かれてはいるけど、描かれてないとも言えるくらい、決定的に芯が足りなかったと思う。勝手に脳内補足で物語作って観てたらいいのかもしれないが。
せいか

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