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インドへの道の一人旅のレビュー・感想・評価

インドへの道(1984年製作の映画)
4.0
デヴィッド・リーン監督作。

1920年代のイギリス領インド帝国を舞台に、イギリス人女性アデラと現地インド人の衝突を描いたドラマ。
名匠デヴィッド・リーン監督の遺作だが、評価は随分低い。確かに冗長な場面も
多く、全体的に盛り上がりに欠けるところがある。ただ、本作のテーマや、デヴィッド・リーン監督ならではの荘厳な映像美には目を見張るものがある。
本作における主人公アデラの役割は、本当のインドを曝け出すことにある。劇中、「本当のインドを見たい」とアデラ自身が訴えていたように、インドを訪れたアデラが最初に目撃したのは本当のインドの姿ではない。アデラが見たインドは、支配者であるイギリス人に媚びへつらうインド人や、英語を話しイギリス文化に言及するインド人ばかりだ。つまり、イギリスに“優しい”インドであり、イギリスに歪曲されたインドだ。アデラがイギリスの力の及ばないインドの自然の奥地へと率先して突き進んでいくのも、イギリス色のインドではなく純粋なインドの姿を見てみたいから。
アデラは誰も訪れないような神秘的で不気味な洞窟に辿り着く。そこでアデラは何を見たのか?恐らく、イギリスに抑圧されたインドの怒りや憎しみ、愛国の魂を目撃してしまったのだ。そして、アデラが流す涙はインドの悲しみ。この場面こそ、アデラが“本当のインド”に触れてしまった瞬間と言える。その後の展開は、反英感情に駆り立てられ暴動を起こすインドの民衆と支配者イギリス人の対立と決別。洞窟を訪れたアデラがきっかけとなって、イギリスに虐げられていたインド人の感情が一気に噴出したのだ。
本作では支配者と被支配者間の集団的な相互理解は望めないとしても、個人対個人では国家間の対立を越えて分かり合える可能性があることを示唆してもいる。これこそが、デヴィッド・リーン監督が本作に託した唯一の希望なのだと思う。
また、インドの様々な顔を映し出した映像は圧巻。インド人がひしめく猥雑な市街と、イギリス人が優雅な生活を送る邸宅の対比。そして、山肌に密着するように流れる雲の映像は神秘的な美しさで、『ライアンの娘』の映像美を明らかに意識しているのが分かる。
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