ピュンピュン丸

海の牙のピュンピュン丸のレビュー・感想・評価

海の牙(1946年製作の映画)
5.0
ルネ・クレマン監督。

自分にとって、この監督は作家でいうなら『文豪』という言葉がぴったり。『禁じられた遊び』『鉄路の闘い』と、二度同じような作品は撮らない。どれも扱っているテーマが重厚で現実を深く洞察している作品なのに、決して難しい語り口調ではなく、しかも芸術性を感じる仕上がり。

潜水艦という閉鎖された空間に閉じ込められた人間たちの人間模様を、不運にも乗員の治療のために拉致された1人の医師の目を通して描く。人間群の中核に凛として存在する、ナチス党幹部フォスター。そこにもたらされるナチス敗北のニュース。閉鎖空間の中における、理性と狂信のぶつかり合いが極度の緊張を生む。

追い詰められ、閉じ込められた敗者の集団が、仲間内で殺しあいをしたり、集団自殺をしたりして全滅していく心理状態が、よく理解できた。

フォスター。

お前みたいなやつがいるから、この世は厄介なんだよ。

いかなる信念、教義も純粋を至高の価値と置く限り、最も忌むべきものは『不純』となる。となれば、内部の粛清が必ず行われるようになり、そのような集団は、最後には凄惨な自滅の道をたどる。恐ろしい。

だらしなかろうと、軽蔑されようと、不純を受け入れる寛容こそ、愛と平和の道なのだ。

きっと。

ちなみに、原題の意味は『呪われた人々』。『海の牙』ではない。