ーcoyolyー

浮草のーcoyolyーのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
3.8
小津安二郎vs宮川一夫。名横綱同士の世紀の一戦。宮川一夫が「お前さんの撮りたいいつものアレってこんな感じだろ?」と鼻で笑ってコスりに行くと小津安二郎がぐぬぬとなりながら相性の悪そうな原色の組み合わせの小道具を完全に嫌がらせでバランス悪く配置して「さあこれどう撮りますか?お手並み拝見させていただきます」と応酬。2時間ずっとこれやり続けていて観る側が2008年ウィンブルドン決勝でのフェデラー対ナダルを見届けた後みたいにぐったりしている。

そして監督vs撮影監督のやや場外乱闘気味の真剣勝負が凄すぎて正直役者の演技とか内容とか上手く頭に入ってこないなと思ってたところに登場するのが杉村春子先生!こんな中でも杉村先生の演技はすっと沁みて入ってくる!ゴジラ対キングギドラ対ビオランテというかむしろ大島渚vs野坂昭如の間に割って入って見事に仲裁した小山明子的な役割でしたね。宮川一夫に軍配上げそうになりましたが優勝は軌道修正にやや成功した杉村先生です。

杉村先生はさ、「演技上手いなー」と素人にもわかるような方向性でアプローチしてくるんじゃなくてさ、無意識に私たちが共有してしまっている映画や演劇やドラマでのお約束ごとを打ち捨ててまるでそこで数十年生まれ育った素人が何かの間違いで紛れ込んできたみたいに劇中に入り込んでくる。これは最近だとソン・ガンホの独壇場ですけど、杉村先生は演技が下手な素人だな、くらいまでやりこんでくるのが凄い。上手すぎて一人だけ浮きまくってて逆に演技が下手に見えることも厭わない。これは共演するの怖いと思う。一切の手心加えてこない。映画の嘘の土俵に乗らない、甘えない。スターってそういう嘘の土台の上で成立してるものだからこうやって梯子外されるの恐怖以外の何者でもないと思う。

この映画、『キネマの天地』の劇中劇で有森也実が主役に抜擢されることになった映画かと思いきや、それはオリジナルの方でこっちは小津安二郎のセルフリメイクだった。とりあえずこっちだと有森也実の役は恐らく若尾文子が演じた役だと思うんですが、重要な役回りではあったけど主役や主役級のヒロインではなかったですね。オリジナルだとまた違うのかな?オリジナルもGYAO!にあったので改めて確認してみます。
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