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浮草のbluebeanのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.5
やはり小津監督はカラー作品も素晴らしいです。おなじみのローアングルで、望遠で完璧に均整の取れた画面に、色彩の美しさも加わっていて、それぞれのショットを眺めているだけでも楽しいです。得に本作は赤の使い方が特徴的でした。画面全体は彩度の低い地味な色味で埋めた上で、必ずどこかにビビッドな赤のアクセントが入るように丁寧に配置されていて、見事でした。花、うちわ、鯉の日除け、傘、郵便マーク、舞台の照明、自転車、提灯、極め付けはえんぴつなど、数え上げればきりがないです。ラストも暗がりに赤い列車のライトが光る構図で終わっています。

さらに京マチ子や若尾文子など、女優人がとにかく圧倒的に美人です。演技もすごくて、京マチ子の嫉妬の演技なんかリアルすぎて恐ろしいくらいです。

そして小津作品には珍しく、男女関係のもつれ、色恋沙汰の展開がしっかりあって、単純に「面白い」と思えるエンタメ性を持った作品だと感じました。もちろん面白いだけではありません。みんなが完璧な人間ではなく、感情的で愚かな行動に走ってしまいます。全員自業自得、という感じ。その結果みんながちょっとずつ失敗して破滅的な結末になるのですが、それが人生だよね、という感じで決して絶望的ではない描かれ方が良かったです。例えば悲しいシーンにあえて陽気な音楽がかかることで、その状況をコント的に見せているように見えました。人間的にはどうしようもない2人が、むしろなんとなく前向きなラストを迎えるところなんか、最高でした。

面白くて、心に沁みて、映像も美しい、最高の映画でした。
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