ほーりー

浮草のほーりーのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.2
かつて戦前に松竹蒲田で撮影した『浮草物語』を小津監督が古巣松竹を離れた大映でセルフリメイクした作品。

小津監督お馴染みの中産階級の家族ドラマと違って旅役者たちの人間模様を描いており、キャストもスタッフも撮影所も作品自体の設定も戦後の小津映画の中では異彩を放っていると思う。

でも紛れもなくこれは小津作品である。

舞台は小津監督の第二の故郷である三重県。

旅回りの嵐駒十郎(演:二世中村鴈治郎)一座が久しぶりにある港町にやってくる。

かつて駒十郎はこの町の一膳飯屋の女将・お芳(演:杉村春子)と恋仲になっており、清(演:川口浩)という一人息子を授かっていた。

駒十郎は清の将来のことを思い、清の前では自分のことをお芳の兄ということにしていた。

一座の女役者であるすみ子(演:京マチ子)は現在駒十郎のつれあいであり、町へ来てから駒十郎の様子がおかしいことを不審に思った彼女は古株の役者からお芳と清の秘密を聞き出す。

思わず嫉妬心からすみ子は駒十郎をなじるが、逆に駒十郎の怒りを買い「わいの息子はな、お前らと人種が違うんじゃい!」と痛烈な一言を言われる。

すみ子は駒十郎に仕返しをしようと、一座の若手女優の加代(演:若尾文子)に清を誘惑してくれるよう頼む。

最初は遊び半分で加代は清に近づくが、やがて二人は深い恋仲になり……というあらすじ。

なんといっても京マチ子が美しい。『羅生門』『雨月物語』『地獄門』『鍵』と数ある巨匠の映画に出演しているが、本作は京マチ子の艶っぽさが十二分に発揮された作品だと思う。

大雨の中、それぞれ向かい合わせの軒下で雨宿りしながら鴈治郎と対峙する場面……京マチ子から漂う色気に思わずゾクゾクしてくる。

鴈治郎も素晴らしい。特に終盤のうちひしがれた悲哀の表情が何とも堪らない。笠智衆や佐分利信とはまた異なる名優の演技を見せつけられた。

そして忘れちゃいけない、若尾ちゃん(笑)

「わたしペンでは書けんの。貸して鉛筆」と清が貸した鉛筆の先をちょこっと舐めて、川口浩に「宛名は?」と聞かれて「あんたや」と言うシーンにもうあたしゃ脳天を撃ち抜かれたね。

見事に他社のスターである京マチ子、中村鴈治郎、若尾文子のそれぞれの個性を掴み、それを活かした演出をしてしまう小津監督の凄さに舌を巻いた。

また本筋とは直接関係ない三井弘次、田中春男、潮万太郎の三下役者たちのエピソードも面白く、これがストーリーが暗くならないように絶妙なアクセントとなっている。

この辺りが小津映画らしさだと思う。

床屋の娘である野添ひとみに色目使う田中に災難が降りかかる場面なんて最たるもので、不気味にカミソリを研ぐ高橋とよがやたら可笑しかった。

そして、あの三井弘次が正しいことを言う訳がない。オチが判っていてもついつい笑ってしまう。

■映画 DATA==========================
監督:小津安二郎
脚本:野田高梧/小津安二郎
製作:永田雅一
音楽:斎藤高順
撮影:宮川一夫
公開:1959年11月17日(日)
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