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最強のふたりのぴのレビュー・感想・評価

最強のふたり(2011年製作の映画)
4.9


明るさだけで明るい映画を作ろうとした作品である。



私が知人にこの作品を薦めるときに必ず言う言葉である。
私は映画に明るさがないと見れないのだが(明るさとは、ただ単に「ハッピーさ」を指すものではない。「ダンサーインザダーク」や「ジョニーは戦場へ行った」などの重苦しい映画の中からもがいて掴み取ったものも「明るさ」である。)、映画に限らず、「それを示すにはそれと真逆なものを描かなければ、鮮やかにそれを描くことはできない」とされているこの世界において、この「最強のふたり」は、なるべく暗さを使わず、明るさだけで明るさを描き切った作品であると私は思う。

この「最強のふたり」において、特筆すべき点を二点述べたい。
まず、友情ものの映画において最も王道である、二人の友情の瓦解がないこと、
次にLudovico Einaudiの音楽である。

友情ものの映画では、友情の瓦解の後、再び友情を取り戻すという手法が必要不可欠である。理由は単純明快で、一度友情を壊すことで、友情があるときとないときの差が簡単に描けるからである(先ほど述べた明るさと暗さのコントラストの構図に似ている)。
ほとんどの映像作品において物語に物語性を持たせるには、何かしから起こさざるを得ない。
ただ単に、日常のなにもない映画を作っても、そんなものはほとんど誰も求めていないからである。
そしてそのような映画は「前衛的」と呼ばれる(何もない在り方が前衛的ならば、我々が生きている世界も前衛的ではないか!)。

故に友情ものの映画では一度、友情を壊す。物語に起伏をつける。

しかし、この作品においてそれは見られない。ずっと仲が良い。
そういった意味でこの作品はかなり「前衛的」であり(もちろんドリスは家庭で様々な問題を抱えているので、それが作品に暗さを与えてしまっているのだが)、
仲が良い二人の日常を見るのみなのだ。私はこの映画のこの点を高く評価する。

もう一つ、Ludovico Einaudiの音楽について。冒頭で流れている「fly」という曲。
聞くと不穏さを漂わせているのだが、よく聞くとヨーロッパの寒さの中で一本のろうそくに当たっているような、優しい温かさを感じる。この曲が映画の優しい世界観を映し出している。
そして、最後に流れる「una mattina」という曲。
確かイタリア語で「朝」という意味だった気がするが、流れ出すタイミング、ドリスの優しい微笑み、彼が去っていくカメラワークが絶妙で、このシーンだけでも芸術という面において、ある極点に辿り着いてしまったのではないかと思うほどである。
このシーンだけでも私は何度も涙を流し、これを書いている今ですら涙ぐんでしまうほどだ。
一言でいうなら優しさだ。誰にでも訪れるような朝のような、微笑むような優しさをこのシーンから感じられ、涙してしまう。

「最強のふたり」という作品は、人に優しい。こんなに温かい世界への憧憬を抑えることができない。優しい世界が好きな方に是非見ていただきたい。
墓場まで持って行きたい作品。
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