三四郎

四人目の淑女の三四郎のレビュー・感想・評価

四人目の淑女(1948年製作の映画)
3.9
「日本も人間もいっぺんすっかり裏返しになったのじゃございませんか」
お金は醜いね。
しかし不思議でもある。GHQ占領下にもかかわらず、戦前にノスタルジーを感じるような作品をよく上映できたものだ。

渋谷実監督は、社会派映画が得意で実に辛辣だ。彼の映画を観ていると常に息苦しくなる。ただ、社会批判、時代の鋭い描写には脱帽させられる。彼の作風は嫌いだが、彼のような皮肉な映画監督は一人くらいいた方が良いのだろう。
それとも新藤兼人の脚本に手をたたいた方がいいのか…拍手は送りたくないが。

この映画には心に刺さる科白が沢山あった。

「僕にはもうわからない。何を信じていいのかわからない。これが今の日本の姿なのか。まともな人間の生活なんか一つもありゃしない。正しく生きてる者が一人もいやしない。人の心が消えてしまったんだ。ただ金だけが光ってるよ。金だけが光ってる!」

「金よりも大事なものがある。人間は金だけじゃ生きられないはずだ(略)君はそれで幸せなのか?(略)君は不幸なんだよ。ただ金に魂を売った者には、それが不幸とわからないだけなんだ」
„別れのブルース“が聴こえる。戦前のノスタルジーを感じたのは私だけだろうか?

さて、タイトル『四人目の淑女』とは月丘夢路のことだろう。彼女だけが最も良い役をもらっていた。
月丘夢路の遺書を読んだ木暮実千代は心を入れ替えたのだ。そして森雅之の為に、さらに月丘夢路の為に変装して、森雅之が正しいことを、世の中が間違っていることを告げるのだ。

足のとられる砂浜で別れたのは世間の荒波にもまれる一歩手前で、苦労しながらもそれでも自分の足で歩いて生きていくというメッセージなのかしら。

あともう一つ、戦前のノスタルジーだけでなく戦後の民主主義・平等を「華族」にスポットライトを当てて描いたのか?
戦前の自分たちの輝かしい栄光と富を忘れることができない高慢な華族が、生活を守る為に金を渇望する醜い姿を嘲笑っている…。そして浜田百合子はなんとも情熱的だった。これが華族か…。ただ、日本人には哀しいほどキスシーンが似合わない…。
三四郎

三四郎