なべ

未来世紀ブラジルのなべのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
3.8
 IMAXのチケット争奪戦に敗れ日曜に持ち越されたDUNE。そこで土曜は第二候補の未来世紀ブラジルを観に行ってきたんだけど、こんなカルト作品を午前十時の映画祭のメニューに組み入れていいのか?(しかも9時半開演だぜ!)
 その昔、タモリが番組の最後にハナモゲラ語でボードヴィルをやってた頃からのモンティ・パイソンフリークなので、テリー・ギリアムの映画も当然好き。英国特有のアクの強い語り口に加え、パイソンズの毒気を孕んでいるので、誰にでも勧めるというわけはいかないが、変なものが好きな人にはたまらない逸品だ。
 一応、管理社会からの逃走みたいなテーマはあるにはあるが、そんなに真剣に取り合わなくていいと思う。そこに意味や意義を見出そうとするとおもしろさがするりと逃げていくから。
 たまにオーウェルの「1984年」になぞらえて大まじめに論じてる人を見かけるけど、どうかなあ。おもしろいのはそこじゃなくて、クラフトマンシップ溢れる偏執狂的ビジュアルイメージなのだから。なんならストーリーさえスルーしてもいいとぼくは思ってる。だってコントを繋いで一本のストーリーに無理くり仕上げてるカンジなんだもの。役所の書類コントなんてモンティ・パイソンでお馴染みだよね。
 誤認逮捕の目撃者ジルを救おうと情報省の役人ラウリーが孤軍奮闘するって本筋より、むしろ整形を繰り返す母親とその友人とその娘や、非合法の配管工タトル(クールだけどちょっともっさりなロバート・デ・ニーロ!)、情報省で拷問を専門とするジャック(パイソンズのマイケル・ペリンね)など、クセが強い脇役たちの悪趣味サイドメニューを楽しむ方が吉。
 繰り返し出てくる飛翔シーンやモンティパイソンの番組めいた突然の爆発、生える地面、鎧兜の亡霊など、悪夢のようなビジュアルイメージはどこか英国人のひねくれ感が出ていてこれまたいい。
 今回数十年ぶりにスクリーンで観たのだが、酎ハイを片手に家でまったり観る分には全く苦にならないラウリーの空回りに結構イライラさせられた。劇場で集中してるってのもあるけど、たぶんジョナサン・プライスが巧すぎるんだろうな。例えばエリック・アイドルやジョン・クリーズが演じてたら見え方は全然違ってたはず。

 騒乱の果てに訪れるクライマックス。廃棄された発電所の冷却塔の真ん中でぽつんと行われる拷問シーンが圧巻だ。ぽつんなのに圧巻て! ここを見るためにずっとラウリーの不調法を我慢してきたようなもんだからね。CGじゃない巨大建造物の圧がものすごいから。
 ラウリーの拘束頭巾が脱がされ、カメラがグイーーーーーンと引いていき全景が明らかになるカットの気持ちよさ。ここはスクリーンで見るとさすがに鳥肌が立った。次いで拷問官が登場。振り返った時のマスクの造形がもう!最高かよ。からの銃声。噴き出す血。完璧。何杯でもメシが食えるわ。
 ビターなエンディングと賑やかなサンバ「ブラジルの水彩画」の組み合わせが皮肉めいてて、なんだか内臓の一部がねじれたような余韻を残して終わる。うーん、好き。

 もうブラジルについては何も書くことがないと思ってたけど結構書いちゃったな。テリー・ギリアムに関しては、絶賛期を過ぎて今は愛憎期にある。最近は三部作:バンディッツ・ブラジル・バロンよりも、脚本がテリー・ギリアムじゃないフィッシャー・キングや12モンキーズの方が好きになってきてる。ああ、フィッシャー・キングをスクリーンで観たいなあ。
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