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HANA-BIのmmntmrのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
5.0
エンドロールが聞こえる中、身体が静かな興奮に脈打っていた。
”映画”は、北野武という存在に喜んだだろうと思う。
男も、女も、孤独だったり寂しかったりする人も、瓦礫、東京、血、拳銃、雪、海、花火、人生。彼の映した物語にあるもの全てが幸福を感じたに違いない。彼の映した物語にあるあらゆるものが、美と邂逅していた。

青銀(せいぎん)な世界は、寡黙な西の眼を通した澄んだ世界。生のひとつの本質に触れる西から見た世界は、何があっても美しい。絶望もしなければ、希望に陶酔することもない。

魂が痺れる圧倒的な映画だった。

ハードボイルドな格好良さにみんな惚れてしまうと思う。あらゆる角度から感嘆とさせられる。
上に”彼の映した物語にあるもの全てが幸福を感じたに違いない”と書いたが、それは北野武監督らの演出が、演出される事物,事象をこれ以上ないというほどに輝かせていたから。それぞれがそれぞれの最高到達点に接近した事象としてあり、これを寡黙で青銀な世界で包みフィルムに凝縮させている。圧倒的な意匠だと思う。

冒頭から顕著な静と動のコンビネーションや、映画特有のぬめったユーモアなど、芸術的でありながら、観客を無条件に惹き込む優しさも兼ね備えていて非常に楽しかったし、劇場が連帯感に包まれる砕けた雰囲気が嬉しかった。

HANA-BI。花火。花-火。
”花”は綺麗だと思う。なぜだか直感的にそう思ってしまう。花は、存在するだけで充分すぎると思う。そこから次の命に繋がろうが、太陽に焼かれようが、踏み潰されようが、自決しようが、関係ない。既に充分だったと思う。作中絵ではあらゆる動物の頭部が、あらゆる花に置換されている。堀部の描くその絵(メタ的に言えば北野武監督が描いた)はそんなふうな観念が潜んでいたんじゃないかと思った。
人は”火”に対して恐怖を抱き、同時に安心も抱く。火は生を奪うし、守りもするからだろう。作中では火薬が人肉を穿ち、代わりに何かが守られ、そして何かを奪う。焚き火が魚を焼き、人を温める。煙草を熱し、病に触れる。そして火薬は放たれ花火をつくる。生に直結するとても大切なものだと思う。
”花火”に魅入られる時、僕はその瞬間を、生きている意味だと感じる。花火に限ることではないが、綺麗なその光景は、無条件に生を肯定していると思う。西を通してみる世界は、どの瞬間も美しかった。さまざまな意味で美しかった。全てのショットが、映画の中心であり得ると思った。

映画を観ている間に、こういう表現いいんじゃないかとか、こういう脚本どうだろうとか、観ている作品に関係ないアイデアがいくつも湧いてきた。そんな作品なかなかない。人を楽しませながら、刺激しながら、時間を忘れさせる素晴らしい作品でした。あー生きててよかった。
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