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HANA-BIのhoshのレビュー・感想・評価

HANA-BI(1997年製作の映画)
3.9
未見の北野映画を見る③ 心に傷を負った元刑事が心を病んだ妻と共に最後の旅に出る。

初期北野映画はこれで制覇。全編に監督本人の絵が引用されたり、冒頭から第7回作品と表示されたりとナルシズムと監督のカラーが一気に濃くなった。良くも悪くも巨匠になりましたね。

画面の青さ、突発的かつ静かな暴力、言葉ではなく画と音楽で語るミニマムな編集スタイル、人生の最も美しい終の瞬間を切り取る刹那さ。北野映画の特徴がこれでもかと詰まっており、集大成といっていい。が、それらの要素が前面に出過ぎた結果セルフパロディ的に見えたし、静けさがかえって過剰に感じた。

画は本当に美しく鮮烈なのだがズバズバと状況を動かしつつ胸が裂かれるような哀愁も挟んでいた初期の作風からは想像もつかないほどセンチメンタル一辺倒の内容になっている。悪くないけど寂しさはある。冒頭、主人公の状態が第三者のセリフで説明されるのもびっくり&拍子抜け。

ただ、ラスト10分があまりに素晴らしい。死の気配漂う海辺と寄り添う2人。彼女の声と銃声。徐々に上がっていくカメラの端正なクレーンショット。あまりに見事としか言いようがない。紛れもなく巨匠の名画の風格。そこにあるのはこれまでの先鋭性ではなく、誰の心も打つ圧倒的な普遍性だった。北野映画の中で1番ではないが日本映画史に残る傑作のひとつなのは間違いない。
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