クロスケ

ミツバチのささやきのクロスケのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
5.0
【再鑑賞】
ひたすらに美しい、ビクトル・エリセの大傑作。

「生」と「死」が同義語のようにフィルムに脈打ち、あらゆる表情が、あらゆる光が、あらゆる物音が撮られることの悦びに満ちています。

アナとイザベルの筆舌に尽くしがたい魅力には誰もが心を奪われるでしょう。
子供らしく無邪気に戯れていたかと思えば、不意にドキッとするような表情や仕草を露呈します。

町の公民館で観た『フランケンシュタイン』も、父親が踏み潰す毒キノコも、小屋で銃殺される逃亡者も、指先から滲む血や焚き火の炎、風に揺れる木の影も、彼女たちを「死」の誘惑へ導くのですが、「生」と「死」の合間を無自覚に行き来する彼女たちの瞳の奥には、危うさを孕んだ無垢な光が宿っています。

吹き荒ぶ風の中に立ち尽くし、荒野に立つ小屋を遠望する姉妹のロングショット。映画のフィルム缶を積んだトラックに群がる子どもたち。テレサが物思いに耽りながら、ピアノを奏でる部屋に差し込む光線の美しさ。逃亡者の靴紐を丁寧に結ぶアナの健気な手つきなどなど…。
素晴らしい映画に接すると、いま観たばかりの光景を、ただ芸もなく羅列したくなる衝動に駆られます。

こういうものを真の映画と呼ぶのでしょう。
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