バス釣り太郎

ミツバチのささやきのバス釣り太郎のレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
5.0
自分の二倍はある大きさの足跡を見つけるとき、機関車が眼前を横切るとき、ドン・ホセの人体模型に目をはめ込むとき、燃え盛る炎を跳び越すとき、毒キノコにおそるおそる触ってみるとき。アナを取り巻く圧倒的な〝静〟の世界で、等身大の激情たちが死のモチーフと共にほとばしり、この感覚はどこかで覚えがある、と記憶を遡る…

図体やいらない思考だけが大きくなっていくにつれて、いつしか失われてしまった能力。あらゆる感覚機能は今よりも遥かに研ぎ澄まされていた時分、死はいつだって隣り合わせで、人間を超越したモノとだって交信できた。そこにはいつも畏怖と畏敬と、少しの優越感が入り交じっていた。それは大人になる準備を始めている姉イサベルとは対照的に、やがて引き離されるものにすがりつくようなアナの、大きな瞳を通して引き出される記憶。大人になってからトトロを観てもなお取り戻せなかった神秘の記憶。いや、そんなものなど最初からなかったのかもしれないけれど、それでもいいのです、この映画は架空の記憶さえ呼び起こしてくれる。蜂の巣模様に差し込む黄金の光が優しく瞼に染み付く