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ミツバチのささやきのkuuのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
3.9
『ミツバチのささやき』
原題 El espiritu de la colmena
映倫区分 G
製作年 1973年。
日本初公開 1985年2月9日。上映時間 99分。
スペインの名匠ビクトル・エリセが1973年に発表した長編監督第1作。
スペインの小さな村を舞台に、ひとりの少女の現実と空想の世界が交錯した体験を、主人公の少女を演じた子役アナ・トレントの名演と繊細なタッチで描き出した。
主要登場人物の名前には、俳優や女優の本当のファーストネームが使われている。
これは、当時まだ6歳だったアナ・トレントが、撮影現場内外で異なる名前が使われていることに戸惑ったためやそうです。

スペイン内戦が終結した翌年の1940年、6歳の少女アナが暮らす村に映画『フランケンシュタイン』の巡回上映がやってくる。
映画の中の怪物を精霊だと思うアナは、姉から村はずれの一軒家に怪物が潜んでいると聞き、その家を訪れる。
するとこそには謎めいたひとりの負傷兵がおり……。

今作品は、ファンタジーと現実が混ざり合い、物語と夢が混ざり合う、子供の心への洞察作品と云える。
共同脚本・監督のビクトル・エリセは、ボリス・カーロフ主演の映画『フランケンシュタイン』が少女に与えた衝撃を重要なプロットポイントに据えることで、この関連性をさらに明確にしている。
アナ・トレントは、目を見開いた無邪気な少女で、姉にからかわれた怖い話や映画と、日常生活や非日常をどのように融合させているのか、私たちはすっかり入り込んでしまう。
彼女の美しい瞳は表情豊かで、心を揺さぶられました。
小生も姉を持つが、その姉は突拍子もない話ばかりして、ガキの頃はつい信じてしまってた。
エリセ監督は、フランケンシュタインの物語が他の映画で何度参照されようとも、完全に独創的な解釈をしている。
"アナ "は、暗い感情や結末を全く理解していないにもかかわらず、映画の中の少女に力強く共感する。
今作品は、彼女に社会不適合者やはみ出し者を探し求めるように仕向け、意図しない結果と大人の世界への影響を与える。
大人の世界は今作品で最も弱い部分と云える。
あるいは、今作品の舞台となった1940年代や、映画が製作されたスペインのフランコ主義の終焉を象徴するような重苦しさがあり、今日初めてこの映画を見る方にとっては、それがわからなくなってしまう。
両親や教師、使用人たちの行動は、彼女の視点から見ているだけなら不思議に思えることもあるが、彼らの無自覚さや、自分たちの知的探求や恋愛探求に没頭している様子はあまり説明されず、父親の尊大な趣味がなぜか映画のタイトルになっている。
これは、空想と現実を混同する大人たちのあり方についてのある種のコメントか、あるいは政治的なコメントなのかもしれない。
また、ルイス・カドラードの撮影は巧みでした。
野原、森、地平線といった田園風景は、牧歌的な風景の下に常に危険や脅威が潜んでいるような美しいもので、子供時代の体験が、ただただ華やかに描かれている。
この洞察に満ちた子供の心の内側への視線は、『ぼくは怖くない』(2003年)や『ペーパーハウス/霊少女』といった作品に影響を与えたんやろなぁ。
余談ながら、主人公のアナ・トレントがヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなるものたち』の主人公ベラの人生を垣間見たら、どう心が変化したやろなぁ。。。
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