眠れないよ

ミツバチのささやきの眠れないよのネタバレレビュー・内容・結末

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

フランケンシュタインに殺されてしまう少女、人々に殺されるフランケンシュタイン、人間にとって毒だから踏み潰されるきのこ、死んだふりをする少女、銃で殺された男。

世の中がどれだけ隠そうとしても、小さなアナの潤む瞳には死の影が映り続ける。死の影は現実と空想を容易く結びつけて、生きる人々から熱を少しずつ奪っていく。井戸のそばの小屋に残された血は、アナにとって死の実感そのものだった。
遊んでいたイサベルは指を切って血を流す。流れる血を口紅のように塗る様は、少女の性への目覚めを思わせる。性は生きる欲そのものだ。彼女から流れた血は生命力に溢れていて、アナの見る景色とは裏返しの関係にある。

正反対の二人の営みを捉えるフィルムのあまりの美しさに何度も息を呑む。決して多く語ることのない物語に、こちら側も言葉を用意しなくてもいいように思えてくる。"映画だ、映画だ!"冒頭の子どもたちの興奮が私たちの胸にも宿っている。今日もニュースは戦争を知らせ、街は小さな戦争で溢れている。働きバチのように六角形の窓枠の中で生きるのも悪くない。こんな映画を観られる日がくるのなら。
眠れないよ

眠れないよ