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ミツバチのささやきのmozzerのネタバレレビュー・内容・結末

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

初めてビクトル・エリセ監督作品。評判のいい映画くらいしか知らず、ましてや監督の名前も知らないというほぼフラットな気持ちでの観賞でした。
まず見終わった感想は、すごく不思議な映画でした。映像は凄く綺麗で日の移り変わりや影の使い方、色使いが素晴らしかった。特にいいと思ったのが、母親が汽車に付いているポストに音信不通になった元夫に手紙を入れるシーンと、汽車に乗る兵士達とそれを見る母親の表情が物悲しくて当時の社会情勢の一端が垣間見える。
ストーリーでは、冒頭の映画が来たと子供達がはしゃいでいるのを見て、自分も昔は公園に紙芝居屋が来たり、町の公民館で映画祭りがあるとよく観に行った記憶が甦った。と同時にニューシネマパラダイス的だなとも感じた。
アナとイザベルの違いは、姉であるイザベルは既にアナが今いる地点を通過していて、まだ子供ではあるものの映画の中で起こっていることは作り物で実際にはあり得ないことを理解している。反対にアナはまだそれらを理解しておらず精霊といった神秘的(スピリチュアル)なことは実際にあるんだと信じている、まるでサンタを信じる子供と同じように、それ故に、姉はイタズラ心というか何度も聞かれるので、自分だったらこんなのがいいなと思うような嘘を言ってしまったんだと思う。
2人で井戸のある廃屋に行く場面は、2人が懸命に走って段々小さくなっていくところが微笑ましくて、心の中で転ぶなよと思いながら見ていた(笑)。
アナと脱走兵の件は、子供ってどこか怖いもの見たさの様なところがあるので、フランケンシュタインの怪物に出会った時は、さすがに湖に投げられて殺されると思って震えて動けなかったんじゃないか。結果的に大人に精霊を奪われた(脱走兵が殺されたことを知った)アナは家出をして、映画で観た森の外れの湖で精霊(怪物)に出会うことができたけれど、それはアナの見た夢か幻だったのか。そして最後再びお祈りをするアナの気持ちはそれまでと同じだったのか、それとも大人への階段を一歩上がったアナは精霊なんていなかったということがわかった上でなお、祈らずにはいられなかったのか、それでも会いたいという気持ちゆえに。
イザベルについても印象的なシーンがある。猫の首を自分の手で絞めて嫌がる猫に指を噛まれるのだけれど、血で唇に紅を引く真似をするところは若さ故の残虐性や子供から女性への変化を表現しているのかもしれない。子供ってこういうことを経験して、痛みや哀しみを学んでいくのだと思う。
最後に初監督作であるものの、社会情勢的に言いたいことや表現したいことをストレートにはできない中で、暗喩的に物事や背景、キャラクター設定をすることで、実はその裏には様々な意味が込められていることを観る者に想像させる映画でもある。
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