ジャックダニエル

ミツバチのささやきのジャックダニエルのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.3
子供の無垢な好奇心と優しさ、子供ながらに感じる死生観だったり迷宮に迷い込んだような感覚が見事に表現されていて非常に素晴らしかった。

スペインの内戦終結後間もない、表現の自由への規制も厳しい社会の中で田舎村に来た巡回映画で見る「フランケンシュタイン」。両親の庇護のもと大切に箱入りに育てられた少女2人。アナはフランケンシュタインを見て、イサベルに「なぜ殺したの?なぜ殺されたの?」と聞くと「フランケンシュタインは町外れの一軒家で生きている、私はアナよと呼べば出てくる」と揶揄われる。
彼女はイサベルの言葉を信じて、町外れの井戸のある一軒家に通い世界を広げていく。そしてやっと出会えた怪物(脱走兵)に対して怖がることなくフランケンシュタインに映画内で優しくしていた少女のように優しく接する。
アナという、さながら厳しく統制されたスペインのような少女の冒険と成長の物語に感じた。

そしてガラスのケースに閉じ込められ大切にされているミツバチさながらのアナは「私はアナよ、私はアナよ」と外の世界への憧景を抱き囁く。

エリセはこの映画が長編デビューで、しかも30代で撮っている。恐るべき才能。
「映画は嘘のできごと」という言葉はある種、表現を統制され、弾圧されている当時の芸術家達の皮肉の叫びにも聞こえる。