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ミツバチのささやきのkchのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.2
目玉があっても見えないものはある、ということを描きたいのかもしれない(というかそれを映画と呼ぶのかもしれない)。線路に伝う列車の音を聴き、イサベルの心臓の音を聴き、扉の向こう側の物音にも聴き耳を立てる。瞳をとじて耳を澄ませる。時には毒の入ったキノコにだって触れてみたい。アナは自分の目で耳で肌で確かめたい。見たことのないなにかを確かめたい。

相変わらず建物の撮り方が素晴らしかった。二点透視の高い視点、子どもの目線の視点、ファサードを平たく見せる絵画的視点。小高い丘から小屋を見下ろすカット。『列車の到着』を想起させるカット。リュミエールからキアロスタミからチャンイーモウまで、ありとあらゆる名監督の画を思い出すんだけど、そういうありふれた画角が鮮明に記憶に残るというのは本当に優れた画だからだろう。

映画は缶詰だよ。映画館で見る価値のある映画を映画館に集まって観られるという至極贅沢なことよ。
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