むるそー

ミツバチのささやきのむるそーのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.7
舞台は、スペイン内戦から数年経った1940年代のカスティーリャ地方。幼い少女・アナは「フランケンシュタイン」で怪物と少女が死んだ理由が分からず姉のイザベルに尋ねる。すると彼女ははぐらかすように、怪物の正体は精霊で村外れの小屋にいる、とアナに教える。怪物との出会い、生と死とは何か。幼い少女が世界の輪郭を探っていく物語。

この作品は本当にすごい。。。幼少期の、目の前の事象を言葉で解釈することができない頃の、モヤッとしたままの感情の集積をありのままに描写している。そんな映画は初めて観た。

映画の世界と現実の世界が混ざったり、オバケに怯えてたり、サンタさんを信じてたりしてたあの頃って、多分目の前で起きたことをそのまま受け取ってたんだと思う。今はその原因や背景を無意識のうちに考えて、頭の中で咀嚼して受け取ってる。つまりは分析する力が成長する前の段階ってことだけど、だからといって幼少期には何も分からなかった訳じゃない。むしろフィルターがない分、目の前の全てを吸収して成長していく。

主人公・アナは、フランケンシュタインや毒キノコ、姉のイタズラなどを吸収して、死という概念に限りなく近づいていく。アナを演じたアナ・トレントの表情には、ドキュメンタリーかのような真実性が宿っていて、おそらく彼女自身にも映画の撮影と現実の区別が付けられないような頃だったのだろう。そんな彼女の"演技"に、ビクトル・エリセの光と影を自在に操る力が相まって、この作品の明度を神秘的な領域まで押し上げている。
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