ひでぞう

春婦傳/春婦伝のひでぞうのレビュー・感想・評価

春婦傳/春婦伝(1965年製作の映画)
4.0
野川由美子の凄みが堪能できる。忠実に原作を再現しようとしているが、ただ、原作では、春美は日本人慰安婦ではなく、「大陸と地続きの一角の土地生れ」(占領下のため、明確に朝鮮と書けなかった)で、源氏名が「春美」であった(『果てしなき中国戦線 昭和戦争文学全集 第3巻』 集英社で、田村泰次郎の「春婦伝」は読める)。原作に書かれた、山西省の黄土、前線の過酷さ、慰安婦が担わなければならない若い兵士の欲望、兵隊の階級による苛烈な秩序などを丁寧に描いている。そして、何よりも、野川由美子の「春婦」としての姿は鮮烈なイメージとなって刻まれる。素晴らしい。月並みにいえば、「体当たりの演技」ということだが、原作のなかの、慰安婦たちの「度はずれた情熱」「肉体のなかの生命の強烈さ」がスクリーンからほとばしってくる。その一方で、三上役の川路民夫には、「その眼がびっくりするほどきれいに澄んでいる」とは思えない。残念。
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