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アントワン・フィッシャー きみの帰る場所のmaverickのレビュー・感想・評価

4.2
デンゼル・ワシントンの初監督作品。アントワン・Q・フィッシャーの自伝を基に映画化がされた。海軍兵士のアントワンは、黒人であることを馬鹿にされたと感じ、同じ艦の白人兵士を殴って処罰を受けてしまう。精神科医の診察を受けるように言われ、命令であるがために渋々ながらも従う。そこでの精神科医との出会いが彼の運命を大きく変えるのであった。デンゼル・ワシントン監督兼出演ということしか観る前の知識はなく、ジャケ絵から軍事ものかな?くらいにしか思っていなかったのだが、一人の男の心の解放を描く、心温まる感動作だった。精神科医とのカウンセリングに、当初アントワンは心を固く閉ざしている。彼は親を知らず孤児院で育ち、里子に出された先で壮絶ないじめにあった過去があった。小さい頃の過酷な環境が、彼をずっと苦しめていたのだった。『ジョーカー』を観た直後だったので、内容的には非常にタイムリーだった。幼少期に起こったことがその人に大きく影響を与える。機械もどこかトラブルを抱えたまま稼働させ続けると壊れてしまう。人間も同じ。怪我や病気も根本を完治させないと意味がないように、心の問題も根本が何かを突き止め、それを解決する必要がある。カウンセリングって欧米と比べて日本ではあまり重要視されていなくて、根性とか気合いとかの精神論が未だに根強くある。でも本作の主人公みたいに問題から目を反らし、嫌なものには蓋をして「俺は問題なんてない」と強がっても、いつか心が壊れてしまう。傷を負った心にはしっかりとしたケアが必要なんだということが、もっと広く認識されてほしいなと思う。主人公にとって、この精神科医と出会えたかどうかで人生が大きく変わったことと思う。力強く支えてくれる人の力を借りて、彼は勇気を持って一歩を踏み出す。どんな困難にあっても人は変われる。幸せになれると教えてくれる。さすがデンゼル・ワシントン、いい映画を撮る。アントワン役には本作が映画デビューのデレク・ルーク。恋人役に元モデルのジョイ・ブライアント。共に新人だが、演技が劣っているとかは全く感じず。キャリアが無くとも、こうした光る人材を積極的に起用していることにも好感が持てる。精神科医役で自身も重要な役所で出演しているデンゼル・ワシントンと、演技派女優のヴィオラ・デイビスが脇を固める。彼女とは『フェンス』でも共演している。こちらもデンゼル・ワシントン監督作。それだけ彼女への信頼は厚いのだろう。『ジョーカー』とは真逆の方向性の作品。あの映画で病んでしまったら、こちらで口直しをすることをお勧めしたい。
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