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ボルサリーノのCINEMASAのレビュー・感想・評価

ボルサリーノ(1970年製作の映画)
3.2
◎【午前十時の映画祭13】 『ボルサリーノ 4Kデジタルリマスター版』(第1作)

 1970年公開のイタリアとフランスの合作映画。主演はジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンである。アラン・ドロンは製作も兼ねている。

【舞台は1930年代のフランス。出所したてのケチな泥棒であるロッコ(アラン・ドロン)と、終始にやついた荒くれ者のフランソワ(ジャン=ポール・ベルモンド)が手を組み、ギャングの世界でのし上がって行く話】である。

 監督はジャック・ドレ―。僕、この人、過大評価されていると思うんだよねー。『太陽が知っている』、『友よ静かに死ね』、『フリック・ストーリー』、『パリ警視J』等、悪く無い作品もあるのだけれど、それらも「悪くはない」程度で。脚本はジャン=クロード・カリエール、クロード・ソーテ、ジャック・ドレ―、ジャン・コーの共作。

 要は、チンピラの若者2人がホンマモンの世界に身を投じてグングンと昇り詰めて行く話だ。

 これ、ビリング(クレジットの序列)を巡って、ベルモンドとドロンが揉めたらしいですね。ホントなのかな? 尚、トップ・クレジットはベルモンド。ドロンと同時に名前が出るけど、左側にベルモンドが出るので、こちらの方が格上扱いというわけ。まあ、フランスではベルモンドの方が俄然に格上だからねー。でもドロンがプロデューサーだからなあ。ドロンにも意地ってものがあったろう。で、揉めたからか、2人は共演しなくなった。この後で共演したのは、実に約30年後。パトリス・ルコント監督&アラン・ドロン引退作(←という触れ込みだった)の『ハーフ・ア・チャンス』となる。こちらではクレジットのトップはアラン・ドロン。

 前半は軽みがあって、快調。クロード・ボランの有名なピアノ・テーマ曲も軽快さに拍車をかける。これが中盤になると転調して、重みのある犯罪マフィア映画に変貌するという展開。

 作品としてのバランスは悪いよ。幾分かモタモタとしているし。パラマウントが出資しているけれど、貨幣価値の変動がゴツくて、脚本を大幅に端折らざるを得なくなったという裏事情もマイナスに作用していると思う。そう、どこかしらダイジェストっぽいというか、描き込みが浅い部分が散見される。だから、出来は評判程には良くないと感じた。

 加えて、アラン・ドロンが重い。スチールだと滅法に格好良いのだけれど、実際に動いている姿を目にすると、ちょっと鈍重なプロポーションをしているというか、下半身が重い。本作より10年前の『若者のすべて』や『太陽がいっぱい』、7年前の『山猫』なんて、滅法に格好良かったけれど、その頃と比べると貫禄が付き過ぎているというか。もうこの頃になると『仁義』とか『シシリアン』の頃でしょ。なんかね、若い頃(=チンピラ期)を演じている場面に違和感が付き纏うわ。アラン・ドロンって、<ウブ>な頃が無い人じゃあないですか。初期から太々しい役柄を多く演じていて。ヘルムート・バーガーやビョルン・アンドレセンみたいにヴィスコンティに食い散らかされずに、逆にヴィスコンティを踏み台にしてのし上がった人というイメージがある。根っからのゴロツキというか。だから、軽味が無いのよ。加えて、この頃になると、実際に裏社会との繋がりも有ったという噂があるでしょう? <うら黒い人>という噂、ね。それも頷ける。本作のドロンには、どこか<ホンマモン臭>が漂っている。<一線を越えてもぉた人>っていうオーラをムンムンと発している。なんだかね、ずっと同じトーンなんですよ。

 その点、若い頃のフランソワを演じたベルモンドには軽味があるし、序盤と中盤以降との役柄の違いね、そのコントラストを巧みに演じ分けている。俳優としての技量・器に関しては、俄然にベルモンドに軍配が上がるなあ、と感じた次第。

 それもあって(あと、語り口の落差が極端に過ぎるというのも有るのだけれど)、先にも書いたように全体のバランスは決して良くない。ただ、衣装・美術なんかはよく頑張っているなと感心したけれども。

 と、文句ばっかり書いているようだけれども、それでも<時の大スター共演映画>という華やかさは有りますよ。どこか往年の日活映画を思わせる部分もあって、「ああ、スター映画を観ているなあっ♪」っていう充足感ね。それは存分に満喫出来た。一口に<スター映画>と言っても、現在のそれとは全く違うじゃあないですか。<映画>というものの在り方が変容しているから。「これが<スター映画>ですよ!!」っていう感覚が残っていた時代の作品でさあね、コレは。

 という事もあって、作品そのものの出来映えはそれほど買わないけれども、ベルモンド&ドロン共演の二枚看板スター映画として満足した。うん、満足した。
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