ペコリンゴ

善き人のためのソナタのペコリンゴのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.0
記録。
聴いて広がる向こう側

2007年のアカデミー賞外国語映画賞受賞作。同じ監督が撮ったジョニデ&アンジー共演の『ツーリスト』は微妙過ぎたけど、この長編デビュー作は名作。

舞台は1984年、ドイツがまだ東西に分かれ冷戦状態にあった時代の東側。シュタージ(国家保安省)局員である主人公が、反体制の嫌疑をかけられた劇作家及びその恋人である舞台女優の監視任務を通して変わっていく。そんなお話です。

はい、出ました旧東ドイツの監視社会。

目を付けられたら盗聴・密告・寝ずの尋問なんて当たり前。令和の日本に住む我々からしたら嘘のような話ですがどうやらホントらしい。この作品はフィクションですけどね。

信じる国家に仕える主人公ヴィースラーは、ターゲットに対する盗聴を通して愛や自由な思想を知ると同時に自分が身を置く体制側に渦巻く欺瞞にも触れることになり、その心は大きく揺らいでいく。

信念と良心が違う方向を向くなかで彼が選択した行動、それに対するあまりにささやかで、これ以上無いほどに美しい対価に極上のヒューマニズムを感じずにはいられません。

そしてなんと言ってもラストのセリフが滅茶苦茶グッとくるんですよね。いま僕の中でラストセリフランキング暫定1位です。他は思いつきませんけど。

…「シュタージ」とは反体制派(西側に傾倒したりとかね)を弾圧したり諜報するための機関で、正規職員の他にも一般市民の協力・密告要員を数多く抱えていたとのこと。

本作でヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエも最初の奥さんから監視されていたとされている。

ちなみにドイツでは1991年以後、本人が申請すれば自分が監視されていた記録を閲覧出来るらしく、そこで近しい人が密告者だった…なんて発覚することが少なくないんだとか。

なんか怖い話ですよね…。