「善き人のためのソナタ」この曲を真剣に聴くと悪人になれない。
監視国家だった旧東ドイツ、日本ではバブル期前夜の華やいだ時代。
監視国家の中核を担ったシュタージ(国家保安省)
泣く子も黙る組織だ。
権力を笠に着て、欲しいものはなんでも手に入れる大臣。
出世のために、利用できるものはなんでも利用する中佐。
そんな人達が蔓延っていた。
反体制と疑われる、劇作家ドライマンと女優の恋人を、監視する任務を遂行するシュタージのヴィースラー大尉。
信条の元、淡々と役目をこなす。実直だ。
真面目すぎるほど真面目。表情も身なりも歩調もブレがない。
しかし、自由な思想と感情をありのままに表現する、ドライマン達に釘付けになり魅了されていく。機械的なヴィースラーに人間性が芽生えてくるが、そんな自分自身にもがき苦しむ。
芸術家たちも、当局の意に反すれば、活動も命も脅かされる。正直に生きることが困難だった時代。
時が過ぎ、壁が崩壊したにもかかわらず、不遇な日々を送るヴィースラー。
冒頭、シュタージで尋問をしていた時とはまるで別人だ。淡々と仕事をこなすところは同じだけれど。
そして真実を知るドライマン。
気づけば、ラストシーンが感動的だった「ある画家の数奇な運命」と同じ監督だった。
この映画のラストシーン、ヴィースラーの言葉。
「私のための本だ」
この言葉に震えがきた。