てっちゃん

善き人のためのソナタのてっちゃんのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.0
前評判がいいぞという声が聞こえてきたし、これは私的な好物であろう匂いを野生的な勘で感じ取っていたものの、異常な時間の無さに絶望している毎日だけど(でも映画観れてるじゃねえかってのは無しで)、ここだ!という時間を見つけたので、鑑賞開始です。

ベルリンの壁崩壊、それくらいは知っている。
東ドイツ、西ドイツで対立していたこと、まあ聞いたことがあるかなって感じ。
東では、シュタージ(国家保安省)による監視社会が日常だった、そんなの知らなかった。

こうした歴史事項(特に近代史)について、疎く勉強不足丸出しの私にとって、本作のこの事実を題材にした作品ってだけで興味惹かれたのだ。

物語の概要は、シュタージに属する主人公ヴィースラーは、西側と内通していると思われるドライマンを監視(盗聴)し、その証拠を掴めという任務が与えられ、それを遂行していくというもの。
物語の目的と終着点が明確であり、登場人物たちも両極端な人達で構成されており、それぞれが目的を持って動いているので、非常に分かりやすい。

特筆すべきは、脚本がかっちりとタイトにまとまっているので、だれることなく進んでいくこと。
だからと言って、終始緊張感が包んでいることもなく、時折見せる安らぎだったり、意外性もあるところも好感が持てる。

最後もここで終わりかなっと思ったところで終わらなく、きちんとその後を見せて、さらに見せてくる。
それがどこで終わってくれても良いような仕上がりだから、すごいよなあと謎の上から目線になるほど。

にしても、あの終わり方よ。
なにも言わない2人。でも分かり合った2人。
それをあのような形にしたのは、最高だし、ぐっとくるもんしかないでしょ。

ヴィースラの想いの偏りの変わり方、その変わったきっかけとなったその瞬間(この瞬間をもっと映画的に描いても良かったのではないでしょうか?と思うほどに、あっさりとしていました。そもそもヴィースラが変わったのはドライマンとクリスタ2人の"日常"的な会話を聞いたからでしょう。如何にして自分のいる日常が実に狭くて、つまらなくて、縛られたものだと思ったとき。特にヴィースラが娼婦を呼ぶときなんて、その象徴でしょう。形だけって感じで。)、自分が何故そのような行動をしているのか分からない状態から確信へと変わっていく流れ。

ここをものすごく丁寧に繊細に描いているから(ヴィースラ演じるウルリッヒミューエさんの功労がとても大きいでしょう。彼の表情にも注目して欲しい)、鑑賞側もそこを見逃さずにのめり込んでいくことのできるのでしょう。

このような作品を観ることによって、自分自身の知識不足に愕然とするし、今からでも遅くないから、こういったことがあったということを学ばないとなと思ったのと、あれ?これ今、日本でも世界でも起こっていることじゃないの?と思う。

硬派でいて、人間ドラマがあり、歴史物作品がお好きな方には、胸を張っておすすめできる作品でした。
てっちゃん

てっちゃん