カタパルトスープレックス

善き人のためのソナタのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.3
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督による冷戦当時の東ドイツの秘密警察シュタージの監視をテーマにしたサスペンス作品です。テーマは「人は変わることができるのか」だと受け取りました。

秘密警察シュタージのベテラン尋問官のヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は指導を受ける新人たちがドン引きするほど冷徹に厳しい尋問をすることで知られている。ヴィースラーは反体制の疑いのある劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)を監視するよう命じられるのだが……という話です。

監視の映画なのでとても静かな作品です。感情を爆発させるような演技はない。そんな中で静かにキャラクターを引き立てる演技をする俳優陣はさすがです。鍵を握るドライマンの恋人で女優のクリスタ・マリア・ジーラントを演じるマルティナ・ゲデックも揺れる脆さが美しい。しかしなんといっても本作のテーマとなる「人は変わることができるのか」を体現するヴィースラー大尉を演じるウルリッヒ・ミューエですよ。

ベートーヴェンを愛したレーニン。そのレーニンはベートーヴェンの三大ソナタの一つである『ピアノソナタ第23番「熱情」』を聞くべきでないと言っていたという逸話が作品の中で紹介されます。それは革命を続けることができないから。人が悪くなれなくなるから。人は変わることができるのか。

とても静かで心に残る映画でした。