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日の名残りのtomoのレビュー・感想・評価

日の名残り(1993年製作の映画)
3.7
俳優陣の熟練の演技と美しいカットで格調高く切ないいい作品に仕上がっているが、どうしても原作と比べてしまい高い点数がつけづらい。
原作小説を読んだのは何年も前で既に筋もよく覚えていないのだが、非常に特徴的だったのが、主人公スティーブンスの一人称での回想で話が進むこと。最初は自分のこれまでの仕事や過去に疑問も後悔もないいかにも堅物の執事のような語り口であったのが、旅を通じて過去を振り返るとともにその虚飾が剥がれ落ち、忠実な執事であろうとしすぎて本質的なことに盲目であった自分を激しく後悔するという、主人公のアイデンティティの危機やこれまでの人生に対する深い後悔が強く胸を打つ作品だった。
映画の方にもそうした要素は残されているが、主軸はラブストーリー(にまで至らない、始まることさえなかった男女の話)の方に置かれている。それはそれで胸を打つ話ではあるのだが、やっぱりちょっと物足りない。原作の記憶を消して見ることができたら良かったのにな。
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