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日の名残りのkmiwのレビュー・感想・評価

日の名残り(1993年製作の映画)
4.0
原作未読。品の良さが映像化された作品からも伝わります。

アンソニー・ホプキンス演じる老執事の回顧録。主にお仕事日記 時々恋愛。
職業柄なのでしょう、常に裏方であり慎ましく控えめながらも職場の秩序を重んじ、自分の仕事に絶対的自信を持つスティーブンス。最初は反発しながらも徐々に彼に引かれていくエマ・トンプソン演じる女中頭ミス・ケントン。二人の仄かな恋心のやりとりが上品。あからさま、というものの真逆。

物語は、1950年代半ば、ある事情から昔の同僚ミス・ケントンを訪ねることとなったスティーブンスが旅すがら過去を振り返る形で進んでいく。
当時のきな臭い世界情勢と貴族的な生活、お屋敷を支える執事始めスタッフの仕事ぶりなど、どのエピソードも興味深く、演者の力量で安心して物語に浸れる。
その中で、唯一情感的なスティーブンスとケントンの愛情物語。互いに引かれつつも積極的になれないもどかしさ。

観た方はわかりますね。物語半ばの読書本を挟んだやりとり、そしてラストのバスに乗り込んだケントンと手を握り合い、離れた瞬間。
なんという慎ましさ。
何もかもを手に入れる人生も悪くはないが、何かが欠けてしまった人生というのもまた味わい深いと、そう感じさせる。良い映画でした。ごちそうさま。
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