Ricola

明日は来らずのRicolaのレビュー・感想・評価

明日は来らず(1937年製作の映画)
4.0
小津安二郎の『東京物語』はこの作品からインスピレーションを得て作ったそうで、たしかに家族のなかで疎外感を感じる老夫婦について描かれている。
ただ『東京物語』と比較すると、この作品では特に老夫婦の間の愛と絆が特に強調されていたように感じた。


年老いてからの唯一の楽しみは「辛い現実などないフリをするだけ」
自分たちの子供夫婦や孫などからさえも、疎まれてしまう彼らはその現実をわかっている。

夫婦の腰掛ける椅子が印象的に映る。
ルーシーが揺り椅子をギーコギーコ鳴らして不本意にも注目を浴び、息子の妻は呆れた表情をする。
唯一の町の友人の店で妻からの手紙を読んでもらって妻が恋しくなって椅子を立って立ち去ろうとするバーク(ヴィクター・ムーア)が、椅子に置いていた上着や帽子を取る所作が画面を占めるショットなど…。
人が座ることを目的として作られたはずの家具も、人がそこにいなければただの置き物と化す。それは主人公の老夫婦の境遇にも言えることではないか。

もうすでにバランスがとれている家族という共同体で役割を見出そうとすることの難しさが、痛いほど伝わってくる。ルーシーは息子家族において、妻でも「母」でももはやない。でも彼女は、居候の身では悪いと思っているのか、この家で何か役に立とうと努める。ただその行動が空回りして家族皆にとって迷惑に感じてしまう。

親にとって子はいつまで経っても子であるのはもちろんそうだけど、その一方で子にとって親とはある時期から必要以上に親であることを拒むのである。
悲しい現実ではあるが、むしろそのことが目の前の幸せに改めて向き合う契機であるはず。
「遠い親戚より近くの他人」というが、まさにそうであって、近すぎる関係性の家族よりも何も知らない他人のその場限りの優しさのほうが心地よく感じるというのも、納得のいくものだと思う。
Ricola

Ricola