シズヲ

スカーフェイスのシズヲのネタバレレビュー・内容・結末

スカーフェイス(1983年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

《世界はあなたのもの》

ギャング映画の古典『暗黒街の顔役』のリメイク作。禁酒法時代のシカゴを舞台にしたあちらに対し、本作は80年代のマイアミに送還されたキューバ移民が主人公という形でそれぞれ時勢が反映されている。カストロの演説→実際の移民の映像が流れる冒頭のシーンが物語の解像度を高めている。オリジナルが90分前後だったのを考えると170分まで長編化しているのは些かやりすぎな気もするが、アル・パチーノの好演も含めて終始エネルギッシュな勢いを維持しているので十分見ていられる。「ボガートやキャグニーで英語を学んだ」という台詞、本作がリメイクであること以上にギャング映画としての“魂の継承”を感じてしまう。

やはり本作の骨子となっているのは主人公であるトニー・モンタナの存在感である。度胸とハングリー精神に満ち溢れ、非常に神経質かつ暴力的。野良犬のように凶暴でありながら、実妹に対する支配的な執着心や曲がりなりの仁義がトニーの屈折した内面を浮き彫りにしている。トニーの転落がその執着と仁義ゆえに決定的となってしまう皮肉な切なさ。アル・パチーノは体格に優れた俳優ではないものの、彼の強烈な熱演はトニーの気迫や猟奇的に紛れもない説得力を与えていた。あととにかく“Fuck”を連呼するので清々しい。

要所要所でのバイオレンス描写にも容赦がなく、序盤の拷問→屋内での銃撃戦からして強烈なインパクトがある。三時間近い尺の中で暴力のシーンが幾度も連鎖するという訳ではないものの、トニーの神経質なキャラクター性も相俟って映画の緊張感は常に持続している。往年のギャング映画で典型となっていた“無機質で仄暗い都市部”のような情景とは異なり、本作はビーチを中心とする鮮やかなリゾート地が舞台となっている。このビジュアルは『グランド・セフト・オート』にも影響を与えたとされ、作中の暴力性と対照的な色彩を映し出している。ただジョルジオ・モロダーの楽曲は悪い意味で80年代的なシンセ系サウンドで、作風とそんなに噛み合っていない印象。

反カストロ主義の犯罪者として放逐され、歪んだアメリカン・ドリームへの迎合によって伸し上がったトニー・モンタナ。しかし彼は全てを手にした瞬間から資本主義の枠組みに絡め取られ、内実なき富の亡者として周囲との断絶を深めていく。自ら麻薬に溺れる姿も含めて、往年のギャング映画の主人公が持つ破滅性をまさしく体現している。妻も相棒も出ていく中でトニーが鬱屈を吐き捨てながら寂しく入浴する場面、権力者となった彼の孤独をありありと浮き彫りにした瞬間である。

最後にトニーは権威も愛も友情もすべて失うことになるが、それでもたった一人で決死の戦いを繰り広げる。血みどろになりながらもライフルを手に取り徹底的に足掻き続ける。「俺はトニー・モンタナだぞ!」蜂の巣になりながらも何かがブチ切れたように立ち続けるトニーの滑稽なまでの壮絶ぶり。「俺はまだ立ってるぞ!」そして背後から撃たれて絶命し、噴水へと真正面から転落――手向けられる言葉は"The World is Yours"。オリジナルを踏襲しつつも更に鮮烈に駆け抜けていくラスト、完璧である。
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