不在

アンドレイ・ルブリョフ 動乱そして沈黙(第一部) 試練そして復活(第二部)の不在のレビュー・感想・評価

5.0
映画冒頭の気球のシーンは、その傲慢さ故に身を滅ぼしたイカロスを想起させる。
タルコフスキーお馴染みの科学への批判、というよりも科学の発展が暴いた神の不在証明、ニーチェのあの言葉に対しての反論だ。
神を恐れて生きること。
それを忘れてしまった人間たちの末路は、彼の後年の作品のテーマとなっていく。

本作では神への信仰と、それに対するアンチテーゼとして娯楽や拝金主義、異教徒や権力の腐敗と殺し合いなどの深い苦悩がまざまざと描かれる。
そんな俗世を垣間見て、イコン画家であるアンドレイは自らの信仰に疑問を抱き、筆を折る。
これらのシークエンスには当時のタルコフスキーが置かれた状況も重なってくる。
その後、彼は教会の鐘を鋳造する場面に居合わせる。
ただでさえ困窮している市井の人々が、信仰を支える鐘を鳴らすために一丸となっている。
その祈りの鐘の音を聞いて、アンドレイは神の愛を感じる。
彼を悩ます全てのこともまた、神の試練だったのだ。
迷いの火も消えた彼は、再び画家の道を進む。
天からの恵みである雨、自由としての馬が映り、映画は終わる。
不在

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