開明獣

ヴァルハラ・ライジングの開明獣のレビュー・感想・評価

ヴァルハラ・ライジング(2009年製作の映画)
5.0
北欧神話で隻眼といえば、最高神オーディンしかいない。世界樹の根元にある泉の水を飲めば、類稀なる知識が手に入ると聞いて、代償として自らの目を躊躇うことなくくり抜いて、泉に投げ込んでその泉の水を飲んだという。

的に必ず当たるという神器グングニールの槍を持ち、8本足の馬にのり、2匹の鴉から世界中の情報を得ているという最高神。知識を得ることに貪欲で、そのためには手段を選ばず、自ら吊るされることすらも厭わなかったことから、"The hanged man: 吊るされた男"と呼ばれることもある。

本作での主人公は、死をもたらす不吉な隻眼の男で「ワン・アイ」と少年によって名付けられた。ワン・アイの行くところ、常に血の臭いがする。素手で相手をくびり殺し、岩で相手の頭を潰し、刃物があれば滅多刺しにする。

奴隷として囚われていたワン・アイは、自らの口寄せとなってくれるただ一人の少年の他は次々と死へと誘っていく。新たな聖地を探して未開の地にキリスト教を布教するという、十字軍のような胡散臭い一行に加わる。

スペインのコンキスタドールは、十字軍と似たようなもので、未開地に赴くと非キリスト教は徹底的に弾圧して、暴力で支配するならずものだった。現地の人たちを虐殺し、文化を破壊する、非人道的な行為を神の名の下に行ってきたわけだが、ワン・アイが属する一団も主旨も中身も一緒だ。

ワン・アイが無双なのは未来を観る力があるからだ。ワン・アイは常にそのビジョンに従う。ワン・アイは伝道の一団に同行はするが、自らの行動はビジョンからは外れない。

北欧神話では、ラグナロクという終末戦争でオーディン始めとする神々は倒されてしまう。が、それは始まりのための終わりであった。神の名の下に全ての行為を正当化してしまうキリスト教にとって代わられた多神教である北欧神だが、超能力は持つものの、北欧神話の神々はもっと生々しく泥臭く、人間味に溢れている。

暴力は血塗られた暴力を非合理に正当化しない。黙示録が如く、多くを語られないまま進行していく物語は、観るものの想像力の翼を飛翔させる。

レフン作品の中では、最も世界観を感じられる作品。やりたいことをやれてる感じで、荒削りだが、かえって魅力的だった。万人にはお薦め出来ない癖の強い作品だが、その不可思議な小宇宙にはまりこむと抜け出せない愉悦が待っている。
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