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グレート・ボールズ・オブ・ファイヤーのtakのレビュー・感想・評価

3.4
この映画のタイトルになっているグレート・ボールズ・オブ・ファイヤー(邦題は火の玉ロック)は古いロックを知らない人でも聴いたことがあるかも。「トップガン」でトム君の相棒グース(アンソニー・エドワーズ)がピアノ弾きながら歌ってたあの曲だ。「トップガン:マーヴェリック」では、その息子を演ずるマイルズ・テイラーが同じくこの曲をピアノを弾きながら歌う。アップライトピアノの上にちょこんと座ってた坊ちゃんが成長して…(泣)とハートに訴える場面だった。

本題。この映画はそのグレート・ボールズ・オブ・ファイヤーを大ヒットさせた1950年代のロック歌手ジェリー・リー・ルイスの伝記映画である。1986年にはロックの殿堂入りを果たしたアーティスト。現在もロック、ポップアーティストの伝記映画は次々に製作されているが、この映画が製作される直前にはリッチー・バレンスの伝記映画「ラ・バンバ」がヒットしているから、その勢いで製作された作品でもあるのだろう。

この映画が珍しいのは本人がまだまだ活躍している中で製作されていること。86年の殿堂入りもあってキャリアを一区切りする意味もあったのだろう。しかしジェリー本人はその後、カントリーに活躍の場を移し、カバーも含めたヒットを生んで現在に至る。20代から始まるロック歌手時代は、彼にとっては半生でもないのだ。そういう意味では中途半端だし、この映画だけでしかジェリー・リー・ルイスを知らなければ、"過去の人"としか思えないのではなかろうか。

3番目の妻となる従兄弟の娘とのロマンスと、彼女が13歳(!)だったことから起きる大スキャンダルがストーリーの主軸になっている。破天荒な言動による出来事だし、そのスキャンダルで世間の評価を大きく落としてしまった人でもある。この映画が残念なのは、人気の凋落があったが"今でも彼はどこかで歌い続けている"と地味に締め括られていること。そこにアーティストとしての闘志や折れない心を見たのなら、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」並みに不敵な笑顔を見せてピアノを弾き続ける、不屈の彼を見たかった気もする。

エルヴィス・プレスリー人気絶頂の時代に、その真似でなく新たな演奏と歌唱のスタイルを生み出し、宗教観に根ざしたお堅い世間の風潮に負けなかったジェリーの姿はこの映画最大の魅力。火の玉ロックがいかに当時の若者を熱狂させたかがよーくわかる。

デニス・クエイドが型破りなジェリーをノリノリで演ずる。「さよならジョージア」の冴えないカントリー歌手役も良かったけれど、ピアノのプレイも再現しなきゃならないから、演ずる上での練習や準備もさんざんやったんだろう。幼い妻を演ずるのはウィノナ・ライダー。「ビートルジュース」の翌年の出演作で、恋と現実に戸惑う役をコミカルに演じてみせる。

チャック・ベリーやプレスリーも登場。音楽ファンとしてこの映画が楽しいのは、黒人専用の酒場で演奏されるブルースのピアノ運指を真似て、ジェリー独特のピアノ演奏ができあがっていく様子。これが映画の冒頭からだからワクワクさせられる。ステージでピアノに火を放ったという逸話があり、映画でもその場面が登場するするが、本人は否定してるんですと。
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