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ジャームス 狂気の秘密のblacknessfallのレビュー・感想・評価

ジャームス 狂気の秘密(2007年製作の映画)
3.5
無人島に一枚だけ持っていけるなら誰のどのアルバムにする?的な質問あるよね。おれが聞かれたらGERMS唯一のアルバム『G.I』と速答する。それぐらい好きで何回聴いたかわからないぐらい。
内容が突出して素晴らしいとか完成度高いわけじゃないけど、影響が大きい。
パンクバンドでボーカルをやってた時のボーカルスタイルは本作の主役ダービー・クラッシュの唱法をお手本にしてた。そうやって言うと数多ある影響元から熟考して選び取ったように聞こえるけど、そんなわけではなく模倣できるのがダービーしかいなかったから。
パンク、取分けハードコア好きだから本当はフィリップ・アンセルモがインスピレーションを受けたであろうnegative approachのジョン・ブラノンのハウリングパワフルボイスや言葉をタイトにギュッと絞り込み戦闘性を煽るagnostic frontのロジャー・エメット、日本が誇るハード・コアレジェンドであるGAUZEのフグさんのシャープに研ぎ澄まされたスクリームに憧れていたけど声の線が細くセンスもなくてマネできなかった笑

その点、タービー・クラッシュは弱さすら漂うヘネヘネしたガナリ声でシャウトし、その上、音程は怪しいしリズムに至っては伴奏に合わせて歌うって概念がないのかってぐらいフリーキーに歌っている。パフォーマンスもイギー・ポップを酩酊させたかのような破天荒なもので自傷をする、歌詞カード見ながら転げ回る、揚げ句、歌詞カードを燃やすという奇行としか言い様のないひどいもの笑
でも、それが破滅的なカオスがあって物凄いかっこよかった。強い感銘と衝撃を受けると共に「これならマネできる💡」と思った笑

そんな希代のボーカリスト、ダービー・クラッシュとGERMSの軌跡を描いた本作、サブタイトルの「狂気の秘密」はダービーのあまりにカオスなパフォーマンスと22歳での自死にかかっている(と思う)。

自分に取って人物やバンド描いた映画は作り手がその対象ついてどう考えているか見えるのが重要で、その基準で言うと本作は駄作になる。
資金難で長期撮影が中断し、その影響でキャストが降板したりで完成したのが奇跡的だったらしい。なので事実関係を押さえるだけで手いっぱいな感じ。バンドの活動期間は短いがメンバーの入れ代わりがあるし、ダービーの人間性にスポットしたことで彼の生い立ちまで詰め込んでいる。この辺の事実関係や当時のLAパンクシーンの描写は非常に丁寧で資料的価値は高いと思う。
でも、あまりに駆け足なのとモキュメンタリーのように当時のことを現在からメンバー達がインタビューで語るシーンを入れ込むトリッキーな手法を使っている。そのため流れがギクシャクしてる。
GERMSのメンバー達をアドバイザーに迎えているだけあって真実性は高いし監督のGERMSへの敬意は感じるけど、これだとGERMSの名前ぐらいしか知らない人はまったく何のことかわからないと思う。
おれはこの映画も資料として採用してるであろう『L.Aパンクの歴史 ジャームスの栄光と伝説』を読んでいるからわかったけど、それでも追いついていくのが大変だった笑

正直これなら無理に映画にせずにドキュメンタリーにしてくれたらよかったのにと思う。
余すところなくバンドの軌跡とダービーの生涯を描いているが、知らない人にその魅力がどこまで伝わるのか観る度に心配になる笑
何より監督にとってのGERMSとダービーがどんな存在なのか見えてこないのが歯痒い。

本作の消化不良感の最大の原因はダービーの自殺の原因を明確にしてないからなんだよね。
勿論、本当のことはわからないんだけどフィクションにするなら、いや、フィクションだからこそ答えを示すべきなんだよ。

あまりに破天荒な破壊行為、タービーのカリスマに触発されて暴動と化すファン達、そのカオスなライヴのせいで評判が上がるにつれ出禁にされライヴの場がなくなることへの苦悩なのか?
社会適応が困難な性質だがプロのミュージシャンになれるほどの才能がないことで人生に行き詰まりを感じたのか?
隠していたが近しい人間達に気づかれていた、ゲイである自分を受け止め切れなかったのか?
人に答えを出せと言いながら自分も何故なのかわからない。

でも、このわからなさがタービー・クラッシュとGERMSを唯一無二の存在にしているのかも知れない。
"俺は混乱した豹のように生まれてきた"
"檻に入りたいと思ったが飼い慣らされることができなかった"
MANIMALという曲の一節。
ダービーの歌詞は意外にも知的で抽象的で難解なものが多い。
この一節が一番ストレートにタービーの本質を表していると感じる。
感受性が強く繊細な魂が何かに怯えなながら強烈に苛立ち怒ってる。
その混沌とした精神をその時その時のテンションでさらけ出したパフォーマンスがタービーの魅力だと思う。
「パンクはタフなヤツへの憧れか、ヤワなヤツへの共感、いずれにせよパンクは優しすぎる」
Twitterでこんな主旨のツイートが流れてきたことがあって激しく共感した。ダービーは後者だ。パンクの繊細さを最も体現した男だと思う。

最後にGERMSの音楽的な魅力について言っておく、でないとなんかパフォーマンスとキャラだけみたいに思われそうなんで。
先に演奏はめちゃくちゃみたいに書いたが、ライヴやレコーディングを重ねるごとにスキルが上り曲も良くなっていく。USHCの枠で語られることが多いがハードコアではなくパンクだった。しかし、初期パンクにない前のめりな2ビートで焦燥感を掻き立てるスピード・チューンもあるからハードコア的な側面もあった。ストレートなパンクからオルタナ/グランジに通じるグルーヴを持つ曲もある。そのせいかGERMSの影響はパンクだけに留まらずオルタナ系とエクストリームメタル系と幅広い。グラインド・コアのBURTAL TRUTHもGERMSのMEDIA BLITZを激速でカバーしてる。
言わずもがなだけどギターのパットは後にNIRVANAのセカンド・ギタリストとして加入 。そして初期のFOO FIGHTERSにも在籍。これは先人としてリスペクトされていた証拠。意外なところではガンズ・アンド・ローゼズのダフもGERMSのTシャツをライブでよく着てる。ダフはもともとFartsというUSHCバンドに在籍してたので実は意外ではなかった笑 マイナーところでは先日来日してたfinal conflictのギターのジャケットにGERMSのパッチが付いていた。final conflictは硬派でポリティカルなんで意外だった(嬉しくて、「おれもGERMS好きです😍」て話しかけた笑)。
知名度もジャンルもまったく違うミュージシャンからリスペクトされてるのがわかる。それだけGERMSの音は多面的で魅力があるってことなんだよ。
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