「何だかおかしな夏でした。」
冴え渡る青にふくらむ入道雲が美しい八月の空。
夏が伝わるのような鮮やかな色彩と蝉の合唱。簾と爽やかな緑が何とも涼しい。
お婆さんと四人の孫という特殊な登場人物たちと、物語は始まる。
お婆さんの言葉がそのまま子供の目線から受け取れる。なんだかノスタルジー。
のちに登場する子供の親たち。三世代間の立場と考えの違いが対比的で、しかし繋がっているようで面白い。
舞台は長崎。今も変わらないかつての原風景。
私も半年前に長崎へゆき、平和記念公園へ行ってきた。
海が綺麗で、路面電車がよく走っていた。
そこで流れている時間は清らかで、戦争前もそのような街だったのかなぁと思った。
毎年やってくる八月には、終戦記念日がある。
"1945年8月9日 11:02"
モニュメントにある文字が画面に映し出された時、ふと目をやった時計がちょうど11:02を示していてあまりの偶然に怖くなった。
「どんなに恐ろしい出来事も年とともに忘れられていくのです。」
「人間って簡単に忘れてしまうのね。」
知らない者は、思いを馳せることしかできない。戦争も、故人の人生も、きっと私たちが生きたコロナウイルス禍も、そうだ。
映画は国境の架け橋にもなるのだなぁと。
心に沁みた。
何よりも反戦映画として最高峰の作品だと思う。
技術的にも、黒沢監督の映画はカメラマンと役者の合わせなすワザであると思うくらいに連動して、そこでしかあり得ない画角と写し方を捉えている。
カットも少なく、非常に画作りにこだわられた作品だなと思った。
一昔前の日本映画がこんなに素敵だったことが誇らしい。こんな映画を作りたいから、巨匠からたくさん学ぶことを決めた。
山間から目玉が覗くシーンと、雲を絵の具で表すシーンは、きっと今後一生忘れられない。