湯っ子

歩いても 歩いてもの湯っ子のレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
4.2
私が専業主婦で息子たちは赤子〜幼児だった頃、義母は孫の顔見たさと、おそらく隣に住む親類へのアピール(隣家の親類は早婚の家系で、子供が次々と産まれていたのが羨ましかったようだ)で、最低でも月に一度は義実家に呼ばれて泊まりに行っていた。
義実家はこの映画と同じような日本家屋。義母は料理上手で、何かと世話を焼いてくれる。いわゆる嫁いびりみたいなことはいっさいないけど、和やかな会話の中に不意に棘を仕込んでくる義母、笑顔で凍りつくしかない嫁の私。たぶんこんな瞬間が、あの頃何度訪れたことか。おお、こわ。思い出さないようにしておこう。

ならば実家に戻った娘としての私はどうなのかというと…、この映画の中でのYOUのあの我が物顔、うわ〜私もこんな感じだわ、と見せつけられた。コロナ禍でここ3年くらいはないけど、お正月に私の家族、弟の家族が実家に集まった時の私のポジションがまさにあれ。いちおうその場が和やかになるように気をつかうけど、それ以上に私の立場が持ってるパワーが強くて、なんだかんだで気持ち良くなっちゃうの。おお、こわ。自覚だけはしておこう。

そしてやっぱり樹木希林。実は彼女には少し苦手意識があったのだけど(本人というより、芸能界での奉られ方がすごくて)、母親が持つ盲目的でエゴイスティックな愛情を見事に表現していて素晴らしかった。今の私が、成人した息子たちのことをいつまでも小さな男の子に見えるのと同じように、20年後の私も、中年になった息子たちのことがそんなふうに見えるのかもしれない。おお、こわ。覚悟だけはしておこう。

小津映画を観ながら、「現代の感覚で撮られた、こういう家族の映画を観たいな」と思ったことがあるけど、この映画がそうかもしれない。
湯っ子

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