あなぐらむ

その人は遠くのあなぐらむのレビュー・感想・評価

その人は遠く(1963年製作の映画)
4.1
その超絶天然小悪魔ぶりに全男性が身悶える、芦川いづいづ渾身のお姉さま物語。
型としては「やって来る話」。童貞男性の妄想そのままのような、大卒でしっかり者で家事全般ができて、しかも思わせぶりな「遠縁の義姉さん」がそのままラノベで使えそうなベタな設定で登場、浪人生・山内賢を悩殺する。
母一人子一人で女っ気ない所にこんな別嬪が「あら、ごめんなさい」てな感じで同居し始めるんだもの。こりゃ煩悶するよ。なんなんだこの可愛さは。そんな二人のあははんうふふが前半、中盤で(一族の家族会議で)お見合いが決まって大坂に嫁いだ義姉を、大学生となった青年が訪ねてその変わりぶりに驚嘆、落胆する中盤。この件りはちょっとマーク・ハーモンの「君がいた夏」を思い出す。従姉がジョディ・フォスターのあれね。

冴えない地方の大学の先生に「嫁がざるを得なかった」いづいづの、気丈であるが故の変貌。(元々京都育ちなんだから当然なんだが)下世話な関西弁を話し、三味線で合の手を入れるその様子には、淡い恋心も砕かれようというもの。そしてその訪問の夜の出来事。もうやきもきしちゃう。(この件で、芦川さんは藤竜也と共演している)
物語は急転直下、だめんずが発動した義姉、そして青年の母の急死を契機に出会う多感でこまっしゃくれな少女・和泉雅子との三角関係の行方は。

感心したのは実は山内賢の方で、まだ未熟さを感じる浪人時代から大学生の青年への成長を声の質から態度まで演じ分けており見事だった。終盤は自分よりも幼い和泉雅子の庇護者になろうとぐっと大人っぽくなる。
芦川さんは前年の「硝子のジョニー」で主演格の代表作もでき、後進に道を譲るべく、ちょっとオトナな芝居を模索している感じ。この家族を取り仕切る家父長的な役柄を、信欣三がいかにもなタイプキャストで演じて見せている。実際このお話は男がみんな酷くて、相変わらずの下品ぶりを発揮する井上昭文はそうだよなぁ、という外道ぶり。トイレで、ですよあなた。こんな別嬪の嫁がいながら。

撮影が姫田真佐久なので、芦川さんの歩く様を捉える横移動の映像など非常に精緻に撮られており、都内の点描(松屋屋上遊園地のスカイクルーザーが動いている所、まだ建設途中の渋谷公会堂など見られます)、主人公の下宿のセットの妙など、日活映画の滋味を愉しめる。
監督の堀池清は非常に淡々と、抑揚を抑えた距離感ある演出を行っており、本作の表面ではなく、うちに秘められた家族制度でパージされていく女性の様を、若い男女の門出と対比して描いている。

芦川さんにとって世代交代の中の女優としての立ち位置と、本作の「お嬢様だが行き遅れかけのハイスペ女子」奈津子役は、重なるものがあったのではないか。彼女は笑顔で去って行く側を演じなければいかない。主人公と結ばれない、そんなポジションとなって。そして「結婚相談」、「大幹部 無頼」となっていく。感慨深い一本である。