半兵衛

鶏はふたたび鳴くの半兵衛のレビュー・感想・評価

鶏はふたたび鳴く(1954年製作の映画)
3.8
人生に行き詰まった奴らが、ほんの少しの奇跡を体験してまた生きることを決意する。そんなスケールの小さいお話を温かく、そしてかけがえのない時間として観客に提供する五所平之助監督の人情で社会に抵抗するプロレタリア精神が決まった秀作。でも個人的にはちょっと観念的な文学臭さが気になったけどね。

石油を掘るために舞台となる土地にやって来たものの計画が宙に浮き仕事がない状態でとどまる五人のキャラがいずれも濃くて、そしてそれを演じる役者たちも佐野周二、渡邉篤、坂本武、中村是好とベテランたちばかりなので彼らのコミカルなやりとりを見ているだけで楽しい。そのうえ飯田蝶子、沢村貞子、三好栄子、沢村いき雄といった名脇役たちが随所に顔を出してくるのでドラマに安定感をもたらす。対するヒロインは南風夕子とやや地味だけれど、あるトラブルから死へと追い詰められるも優しき五人組とのふれあいから再出発していくキャラクターには合っていた。

三浦光雄による海辺や砂浜といった景観をあるときには雄大に、あるときには優美に映した映像も素晴らしくてドラマに風格を与えている。

後半から登場する伊藤雄之助の胡散臭くも情けなくて憎めない小悪党っぷりが出色、そして大事にしていた物とともに海へ消えていく彼の最後が完璧。そしてゴッドマザーのような風格を持った三好栄子はまさかの良い奴。彼女が放つ「周囲の人から白い目で見られても笑って挨拶すればええんや」は名台詞すぎて泣けた。

前向きなラストが清々しい印象をもたらし、見てるこちらも生きる気力をもらったような感覚に。
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