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鶴は翔んでゆく/戦争と貞操のdiesixxのレビュー・感想・評価

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20年ぶり再見。IVCから2023年に発売された4Kリストア版。序盤から撮影の才気走り方が半端じゃなく、これはVHSの画質であっても一目瞭然であったが、画質の向上により、照明の高度さも際立って、より一層本作の不世出の魅力が伝わった。
印象的な螺旋状の階段。ボリスがヴェロニカのために駆け上って行く場面はいったいどのように撮ったのか。戦災にあったアパートメントをヴェロニカが駆け上り、我が家と家族が喪われたことを知るショッキングなシーン、戦場に斃れるボリスの視界から空が遠のいていき、幸福な過去と未来(幻想)が二重映しで幻視される場面、烈しい空襲のさなかでヴェロニカに迫るマルクのサスペンスフルな演出、絶望したヴェロニカが汽車と並走し、自死のイメージを見る場面…どれも初見の鮮烈な印象が心に刻まれていることに驚いた。
ストーリー上、マルクは悪役の扱いだが、誰もが戦場に向かう世の中で、ズルをしてでも銃後にとどまり、惚れた女の近くにいるのも、それはそれで勇気なのではないかと大人になると思う。音楽を愛するマルクにとっては、戦場の暴力は耐え難たかろう。
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