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おもひでぽろぽろのmarimoのレビュー・感想・評価

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)
4.2
エンドロールを眺める私の表情は、タエ子(小5)と同じような顔になっていたと思います

…これって、ハッピーエンドなのか?

これ結構エグいオチなんじゃねえかと

どうやら、もともと高畑勲監督の構想ではタエ子が東京に帰るところで終わりだったようです
そこに鈴木Pがもうひとアクション欲しいなと追加要望した結果らしいです

…ここでも鈴木Pなのか、やっぱり凄いなこの人

これ、そのまま帰るってオチで
今度、冬に来る時には
「5年生の私」は連れてこなくても、「高2ぐらいの私」を連れてきて拗らせそうだなって
なんとなくぼんやり眺めていたら

まさかの引き返し

ハッピーエンドっぽいよね
でも、これって本当にハッピーエンドなのか…モヤモヤするんですよ、そんな演出なんですよ

タエちゃんは劇中では27歳
まだ若いじゃんって思うけど
この話の時代背景は1980年代
今よりも、まだ女性が活躍できる場が限られていた時代

タエ子(27)にとっては、このままずっと一人で生きていくのかも…という覚悟をしはじめているそんな年代なのかなと
今の感覚に置き換えると30代半ばから40代前半ぐらいの感覚に近いのかもしれない…

ラストの電車の中では、もう小学5年生のころの記憶(タエ子(小5)の姿)には目を向けない
完全にこれからの自分をシミュレーションしているのだ

この先、東京に戻って孤独でない未来が待っているのか
そんな感情が渦巻いていたのではないだろうか…

もうここには、小学5年生の思い出の中で描かれていたピュアな恋愛などないのである

タエ子(27)にとっては、幸せの選択ではなく、不幸でない選択を考える段階になってしまっている

トシオは良い人だし、ちゃんと手に職もある
都会的な華々しさはなくとも、慎ましくも優しい日常がそこにはある

その生活にはトシオ祖母のように、
自分の家系の存続しか見えてなく、タエ子(27)の感情に寄り添うことなど皆無な人間も含まれる

あの電車で無表情に進行方向を見るタエ子(27)は、それらの色々な要素を天秤にかけ
いくつもある未来の可能性の中から、1番不幸でない未来を探っていたのだと思う
(ドクター・ストレンジみたい)

タエ子(27)の選んだ選択肢が、えらくハッピーエンドのように描かれている
…ところが
最後のタエ子(小5)の表情である
タエ子(小5)を残して背景は暗転し無音のエンドロールが流れる

マジでこの演出やばすぎるだろ…笑

〜ここで本作の思い出〜

小学生の頃に、母方のおばさんが本作を大絶賛していたのを思い出す
大人もアニメ見るんだなと思いながら、レンタル化した際にはVHSを借りた記憶がある
ラピュタとかトトロのノリで観てしまった当時7~8歳の私には全く面白さが分からなかった
寝台列車で子供たちが車両の通路を走る描写は薄っすら記憶にあったので、多分そこらへんでギブアップしたのだろう、相当序盤だ

それから時を経てようやくの鑑賞

めちゃくちゃ面白いじゃねえか!!

そういえば、タエちゃんって当時の母親とか、おばさんと同年代なんだな
おばさん独身だったし、そりゃ世代ど真ん中直撃映画だったんだな
大絶賛するわけだ

30年ぐらい経ってようやく納得する

〜思い出おわり〜

2時間かけて、過去回想(小5)と現代(27歳)を交互に見せてタエ子がどんな子かを丁寧に積み上げていく

とある展開でタエ子の心に引っかかっていた彼女自身の後悔が溢れ出していく
そこで過去と現在が繋がり
トシオの助言が混ざることで
タエ子はまたひとつ成長して未来に進んでいく…
っていう前向きな展開と思わせておきながら
その未来に進む進行方向からは逆走し、引き返した先を終着にしようとする結末

私がぼんやり想像した「高2ぐらいの私」を引き連れてまた拗らせるタエちゃんはそこには存在しない
タエちゃんにはこれ以上過去なんかを振り返る時間も余裕もなかったんだ

これは30過ぎてからの鑑賞がオススメのやつでした
あの時、本作の良さが全く分からなかった小3ぐらいの俺に教えてあげたい…大丈夫だぞ、ちゃんと面白さ分かるからな

…はっ、俺の”おもひでぽろぽろ”が始まってしまう
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