櫻イミト

狩場の悲劇の櫻イミトのレビュー・感想・評価

狩場の悲劇(1978年製作の映画)
4.5
ソ連映画史上最高の美少女、ガリーナ・ベリャーエワ(当時17歳)の主演デビュー作。モスクワ育ちの映画評論家なかざわのぶゆき氏のオールタイムベストロシア映画。劇作家チェーホフの唯一の長編小説(同名 1884)を映画化。少女愛と犯罪が交錯するミステリー。

19世紀末、一冊の原稿を携えた男が出版社を訪ね本にしてほしいと願い出る。男の名はセルゲイと言い原稿のタイトルは「狩場の悲劇」、実話だという・・・ロシアの森深くにある貴族の別荘。そこに住むカルネフ伯爵を訪ねてきた友人の判事セルゲイ40歳は、森の中を駆けめぐる19歳の美しい娘オルガに目を奪われる。オルガは森の管理人の娘で病の父と暮らしていた。それが貧乏から抜け出すために、伯爵邸の管理人で50歳の貴族と簡単に結婚を決めてしまう。結婚式の日、祝宴から逃げ出したオルガは追いかけてきたセルゲイに愛の告白をする。駆け落ちを考え悩むセルゲイだったが数日後、オルガがカルネフ伯爵の妾になったことを知る。。。 

先日「小犬を連れた貴婦人」(1959)を観たので引き続きチェーホフ原作で気になっていた本作を鑑賞。

非常にクセの強い、カルトな香りが漂う映画だった。私が偏愛する、同じくロシアの文豪ツルゲーネフ原作の邦画「はつ恋」(1975 仁科明子主演)と共通点が多々見られた。金持ち中年たちを翻弄する美少女の悲劇という設定、退廃的でキッチュな美術、独特な音楽センス、と好みの要素が詰まっていてとても楽しめた。どこかB級感のあるカメラワークも同時代を感じさせる。

特に印象的なのがカルネフ伯爵の描写で、寝室では日本の着物を着てイスラムの祭壇を祭るという悪趣味ぶり、ジプシー音楽を好み楽団が同居しているなど、貴族の退廃を監督独自の美学で演出している。そんな世界観だから尚更、ヒロインを演ずるベリャーエワの輝きがが目立つ。聞きしに勝る美少女ぶりだった。

惜しむらくはソ連政府の検閲による多くののカットシーンがあること(モスクワオリンピックの直前で特に厳しかったのだろうか)。そのためよくわからない部分も見受けられる。
それを差し引いても好みの要素が多い個人的カルト映画となった。

※ガリーナ・ベリャーエワはソ連のバレエ学校在学中に本作のエミー・ロチャヌー監督にスカウトされた。そして翌年18歳になると同時に、42歳のロチャヌー監督と結婚。6年後に2人のコンビでバレエ映画「アンナ・パブロワ」(1984)を撮った直後に離婚した。


※1980年モスクワオリンピックは初の共産圏開催で日本はボイコット(不参加)した

※チェーホフの原作は江戸川乱歩が絶賛

※ツルゲーネフは1818生、チェーホフは1860生
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