茶一郎

レイニング・ストーンズの茶一郎のレビュー・感想・評価

レイニング・ストーンズ(1993年製作の映画)
4.2
 何やらイイ年のオッサンが、二人して野原で一匹の羊を追いかけ回している。捕まえた羊を生きたまま肉屋に持っていくと、「これはオトナの羊だね、オトナは売れないよ」と返され、仕方なくパブで羊の肉を自分たちで売っている。売っている間、車に鍵を付けっ放しにしていたらしく、車を盗まれる二人。
 そんないかにもコメディ然とした冒頭、今作は、原題の『レイニング・ストーンズ』「石が降ってくるような辛い生活」が表すような、貧しい労働者階級のコメディである。しかし、物語が半分も進むと、羊を追いかけ回していた頃が懐かしくなるほど、ストーリーは真っ暗な闇の中を突き進むことになった。
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 オッサンの内の一人の娘は、直近にキリスト教の儀式の一つである「聖餐式」を控えている。オッサンパパは「娘の晴れの舞台は豪華にしなきゃいかん」と、ドレス購入に意気込む、普通の生活を続けていく余裕すらないのに。
 違法スレスレの仕事、何とかお金を稼ぐも、ドレスを買うためのお金が足りない。いよいよ父親は借金、街を牛耳る高利貸しに手を付けてしまう。

 「男を狂わすのはいつも『女』そして『金』」、今作のジャンルは、冒頭のコメディから、ノワールスリラー、そして『罪と罰』に転換。
 これには驚いた。監督のケン・ローチと言うと、新作が出る度に「どうせ、また貧乏人描いているんでしょ」と鼻で笑っていた昔の自分を殴りたい。コメディ、サスペンス、ミステリー、ラブストーリー、戦争、青春、非常に多くのジャンルの作品が立ち並ぶケン・ローチ監督のフィルモ・グラフィ、監督のクレバーさは、どんなジャンルの映画も自分の「言いたい事」をベースに、面白く語れてしまう事なのだ。

 今作のジャンルの折衷感覚も見事としか言えない出来で、全ては監督作品で反復される社会全体が「出口のない地獄」と化した(今作で言えば)サッチャー政権下での労働者階級の生活を語るためにある。そして、そんな「出口のない地獄」に、僅かな光を見出してくれるのがケン・ローチ監督の優しい所なんだなァと。
茶一郎

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