半兵衛

波影の半兵衛のレビュー・感想・評価

波影(1965年製作の映画)
4.2
気のいい、優しい娼婦という女優なら一度はやりたい、しかしリアリティを確保するのが難しい役どころを自然に演じる若尾文子の凄みと言ったら。溝口健二監督や川島雄三監督作品をはじめ何度か演じてきた水商売役、水上勉原作と彼女のキャリアにとって一つの集大成とも言える。

でもそれ以上にこの映画に厚みを加えるのが岡崎宏三の撮影、ニュープリントで見たこともあるが北陸の風景を捉えた白黒映像の美しさは言葉がでないほど。そして北国に住んでいる人ならわかる雪が降っているときの湿った空気も伝わってくる。

若尾文子を迎える浪花千栄子や乙羽信子、山茶花究といったベテラン陣の演技も素晴らしく、大空真弓もモダンで溌剌としたキャラクター性を生かして若尾と対になっているのも見事。

戦中から戦後という時代の話をあっさりと、それでいて時代の流れを観ている人にわからせて、そして通常なら二時間越えそうな内容を100分にまとめる豊田四郎&八住利雄の流麗な語り口も最高。特に戦中から戦後に話が移るとき、朝ドラみたく8/15のことには一切触れずに出てくる登場人物の設定や新聞の記事だけで変化したことを伝える演出がクール。
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