デニロ

薄桜記のデニロのレビュー・感想・評価

薄桜記(1959年製作の映画)
3.5
高校生の頃、深夜テレビで観た覚えがある。でも最後まで観ていたかどうかは怪しい。タイトルロールのシルエットだけは覚えていた。物語そのものは最近NHKでドラマ放映したので知っていた。NHKの配役は、丹下典膳(山本耕史)、長尾千春(柴本 幸)、中山安兵衛(高橋和也)。この憎愛は高校生のわたしには判らなかったと思う。

私闘で市川雷蔵に返り討ちにされたやさぐれた侍どもが、雷蔵の出張中その幼な妻を凌辱して憂さを晴らすという卑劣な真似をする。新婚ほやほやでお人形遊びをするようなねんねをだ。挙句に暴漢どもは幼な妻が雷蔵の留守中に間男をしていると言いふらす。雷蔵はその詳細を知り、妻に罪はない、が、幾人もの男に凌辱された以上はもはやわたしの妻ではない、と言い切る。お前に罪のないことは頭ではわかっているが、わたしの身体が許さないのだ。この凄い台詞、『男はつらいよ』でも使っていた。寅さんがさくらに「好きになっちゃいけないのは頭ではわかっているんだよ、でもこころが云々」。山田洋次は観ているのだろう。

この幼な妻千春を演じたのが真城千都世。本格的なデビュー作の様だ。幼な妻には見えないけれど凌辱される前のひとり芝居は哀れを誘う。市川雷蔵が、妻の間男の噂を払しょくするために間男の正体はキツネだ、と切り殺す、という場面は彼女のキツネ顔を見た脚本伊藤大輔の洒落だろうか。

赤穂浪士の話を絡めているのだが本作ではそれは活きていない。NHK版は全11回もあるので語り尽くしているけれど。ラストで千春が堀部安兵衛に吉良邸の茶会の日時を知らせる場面はあんまりだと思う。その堀部安兵衛を演じたのは勝新太郎。なんだかよく分からない役柄で、千春に一目惚れしたものの市川雷蔵の婚約者であると知ると泣き暮れて堀部弥兵衛の13歳の娘と婚約し養子になる。失恋の果てに赤穂浪士となってしまったと後悔のひとりごとを延々とする。

でも、面白いですよ。

1959年製作公開。原作五味康祐。脚本伊藤大輔 。監督森一生。

角川シネマ有楽町 <没後50年特別企画>『市川雷蔵祭』(2019)にて
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