ちろる

雲ながるる果てにのちろるのレビュー・感想・評価

雲ながるる果てに(1953年製作の映画)
3.5
家城巳代治が、神風特別攻撃隊の悲劇を描いた反戦ドラマ。

戦後たったの8年しか経っていないということで戦争体験を持っている俳優が多い上、本作が遺稿集を基にしただけあって当時の人々の生活も感情もリアルに見せている本作。

父と母を思い号泣する大滝の涙を見るとあの戦争は何もかもを奪う何も意味のないものだったのだということがわかり虚無感に襲われる。
そして、その無意味の中に巻き込まれた1番の被害者はまさしくこの神風特攻隊であった。

呆気に囚われたのは、黒板に”消耗品”の文字のあとに続く人名が書かれているシーン。
それを平然と受け止める彼らの姿に戦争の残酷さを思い知る。

後半に向けて何が行われようとしてるかが分かる本作だからこそ、前半、彼らが、ごくごく普通の明るい青年が無邪気に仲間と笑い合っているのが観ていて辛い。

「昨日も明日もねぇ、今日一日が大切なんだ」

1日1日を噛み締めるように味わって、死へのカウントダウンのように見えるけれど、彼らの概念はちょっと違って、【お国のため】に、、 最高峰の軍事作戦に関わるまでの名誉あるカウントダウンなのだ。
将校らが言う「特攻隊はいくらでもある」と。それと同時に重なるように国民学校の子どもたちが歌う姿を映し出す。

残酷かつ強烈なこの描写が、この作品の伝えたいすべてでもある。

特攻隊の非人間性を悟る深見でさえも、まだ傷も癒えぬ身体で、「君らと一緒に死ぬ」と、共に空中へ舞上がる。
しかし空には何も残らず海の中に消え散る命たち。

とことんリアルで容赦ない反戦映画であった。
故に苦しい。
ちろる

ちろる