櫻イミト

雲ながるる果てにの櫻イミトのレビュー・感想・評価

雲ながるる果てに(1953年製作の映画)
4.0
SF作家の星新一が「私の一本の映画」(キネマ旬報社)で挙げた作品。神風特攻隊員たちの同名の遺稿集(1952)を、戦後8年目に映画化。鶴田浩二に”特攻隊くずれ”のイメージ※をもたらした前期代表作。円谷特技が特撮を担当。

1945年4月。九州南端にある特別攻撃隊基地では学徒兵(徴兵された旧制高校生)たちが翌日の特攻命令を受け、最後の夜に勇ましく気勢をあげていた。しかし雨により作戦は中止。長引く悪天候で待機が続く中、彼らを苦悩と哀しみが包み込んでいく。。。

星新一は本作を“恐怖映画の最高傑作ではないか。これ以上のは思い浮かばない”と評した。戦闘機に乗って体当たりする自爆攻撃“特攻”を控えた青年たちの物語である。

確かに前半はあまりにも異様だった。翌日の特攻メンバーの発表が、まるでバスケ試合のスタメン発表のように行われ、“今晩ビビッて逃げ出すなよ”との軽口に皆で爽やかに笑い合う。作戦会議も部活のようなノリで“みんな初めてだから緊張して目を閉じてしまうかもしれないが上手く敵艦に体当たりするように!”と激励し、 “必死必勝だ!”と気勢を挙げる。これではキャプラ監督のプロパガンダ映画「汝の敵日本を知れ」(1945)で描かれる日本軍そのものだ。

しかし後半に進むにつれて隊員たち個人の内面の声が表出していく。木村功が演ずる学徒兵が語る。「どこかへ行ってしまいたい。でも目に見えない大きな力が、僕らを墓場の中へぐんぐん引きずり込んでいく・・・」。この“見えない大きな力”こそ、本作の前半や「汝の敵日本を知れ」が指摘した日本の暗部だろう。だが、決して日本に限った話ではない。その後、アメリカは何度も戦争の当事者となり、今も世界の一部で戦争が続いている。それでも、映画は“見えない大きな力”を可視化するかもしれない。諸刃ではあるけれど、見極めるのは鑑賞者の力にかかっている。

本作は非人間的な軍部を示した上で空虚に終っていく。スタッフ・キャストとも8年前まで戦争を体験していたのだ。鶴田浩二は試写室で泣き続けたという。GHQ占領は1952年までなので、翌年の本作は検閲を受けずに作られた戦後初の反戦映画の一本である。

※鶴田は元海軍だったが実際には航空隊整備科であり、出撃する特攻機を見送る立場だった。

※特攻で死亡した日本兵は約4000人
櫻イミト

櫻イミト